誓い
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……雪子はちょっと頭がいいだけなのにな。本当は甘えん坊のバカタレなのにな」
「バカタレじゃないもん!」
「クックック、そうだな雪子は普通の女の子だな」
「うん……そうだよ。私は普通の子。なのに……」
その日、小学校で学力テストがあった。全国の学校で同時に行われ、勝手に名前が載る忌まわしいテストだ。そのテストで雪子は満点を叩き出した。しかもその日は少女漫画を貫徹して読破した後だった。にも関わらず開始から二〇分で全ての枠を埋め、おにぎり鉛筆を握り締めながら死んだように眠ったのだ。教師はその姿を熟考しているのだと判断。貫徹していることがバレ、雪江にお尻を叩かれたのはかなりのトラウマだ。
「お尻痛い……バカタレババァ(ボソッ)」
「やれやれ。飛んだ跳ねっ返り娘だな。まだ叩かれ足りないと見えた」
「そ、そんなことないもん! とにかく学校なんて嫌! もう行くたくない!」
教師やクラスメイト目が突然変わった。常々から崇拝の念を抱かれていたことはあったのだが、ここ最近は何か恐ろしいものでも見るかのような、そう怪物でも見るような瞳をする者さえいる。子供だったこともあり、そのあたりの感情のコントロールが難しかった。自分はただ、普通に考え、普通に解答を埋めただけ、正しいことをしただけなのだ。
「学校は、楽しくない、か?」
「それは……」
楽しくない、などと言えるわけがなかった。母が作り、母が管理し、母が治めるこの学園を、その娘が否定することなど、出来るわけがなかった。困ったような笑みを浮かべる雪江をこれ以上困らせることなど出来るわけがない。だって大好きだから。
「あの学園はな、雪子。いずれこの国の中枢に飲み込まれる運命を背負った子供が、最後に逃げ込むことの出来る場所。いわば楽園だ」
「楽園? 学園が?」
楽園という言葉に、幼い雪子が連想したのは、楽しい場所。素敵な場所。笑顔の溢れる場所。残念ながら、雪子にはひとつも該当するものがなかった。
「そうだ。いずれ彼女たちは学園を卒業し、結婚する。お前にはまだ分からないかもしれないが、それは拒否することは出来ない」
「結婚? 結婚って好きな人が好き合ってするものではないの?」
「クスッ……そうだな、その通りだ。だが、そうならない場合もある。特に、高貴な者、優秀な遺伝子とやらを持つ人間は、な」
「よく分からない」
「そうだとも、雪子は普通のおこちゃまだからな」
「む……」
雪江はさもおかしげに笑った。母は結婚をしていない。それは母の強さの現れだった。男が強い権力を持つ時代であっても、引かぬ、媚びぬ、省みぬ、は雪ノ宮家の当主たる雪江の合言葉のようだ。そんな母を、雪子は誰よりも尊敬している。
「雪子。お前は私の娘だ。どんな輝かしい栄光よりも、溢れんばかりの
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