いつか
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「お兄様ってば、ずるい!」
霧島家の今日の食卓。切干大根の煮物、里芋の味噌汁、たけのこご飯に焼き魚とくれば立派な和食の出来上がりだ。和食というのはシンプルであるが、だからこそ味付けが難しい。砂糖、みりん、醤油、塩、みそ、酒が基本的な調味料になるが、料理の本に書かれてある通りに入れてみても味が薄かったり逆に濃くなったりする。日本食は比較的薄味がベターであるが、そこから本人たちに合った旨みを見つけるには年月が必要だ。無論、霧島家の食卓を預かっているスーパー女中であるところの華恋さんはそこのところ抜かりはない。
主である左霧は何でも美味しい、美味しい、と食べるのだが、それが奥さん――――奥さんではないが世の中の女性にとって一番困ることに気づいていない。だが、仕事で精根疲れ果てている哀れな男に対して、そんな些細なことで文句を言っては女が廃るというものだ。左霧のありきたりな反応を盗み見て、その微妙な違いを感じる。これを繰り返して今日という食卓が出来上がったのだ。なんと涙ぐましい努力だろうか。苦節十数年、今では立派な囲い女――――もとい、愛人としての地位を確立できたことを誇りに思う華恋であった。
「ん! 美味しいこのたけのこご飯! 美味しいよ華恋!」
「そうでしょう、そうでしょうとも。さぁたぁんと召し上がれ、豚のように食い散らかして下さいませ」
ちなみに今回は八〇点と言うところだろうか。今度はもう少し出汁の時間を長くして見ようと思案する華恋。もはやプロの領域に達していると言ってもいい。
「お に い さ ま ず る い !」
「ああ、桜子! いくら君が愛しいからと言ってご飯粒を僕の顔にかけるのはいただけないな」
「桜様、はしたのうございます。はい、チーズ」
今日も元気に夕餉をいただく三人。桜子は相変わらず行儀が悪い意味で神がかっている。そろそろ躾なくては後々恥をかくのは桜子自身だということが分からない大人二人。男は桜子の米粒を綺麗に取り、一人はどこから出したのか、デジタルカメラでパパラッチ状態。恥ずかしげもなくポーズを決めるピカピカの一年生。おもしろきは良きことではあるが、決して関わりあいになりたくない団らん。
「それで、さっきから桜子は一体何に怒っているんだい?」
桜子はその問いに頬を膨らませて訴えている。聞かなくても分かるでしょ? お兄様は私の事は何でも知っているんだから! さぁ私の言いたいことを当ててちょうだい!――――もちろん全て左霧の脳内妄想である。
「左霧様、桜子様は夕方から左霧様が付きっきりで雪子様に魔術をお教えしていることに拗ねてらっしゃるのです。そうですよね桜子様?」
「う〜〜〜〜! そうだけど! どうして言っちゃうの華恋!」
「そ、そんな、私はただ、桜子様のためにと思って」
「嫌い!
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