いつか
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えない力は教えてあげられるよ」
「本当おにいさま!?」
「うん、僕じゃなくて華恋が、だけどね」
「え……」
そこでションボリとまた顔を歪ませた妹。どうやら兄が教鞭を振るってくれると思っていたらしい。残念ながら自分にはそっち方面の技術はからっきしである。その代わりそっち方面に長けた華恋が先生となり師匠となり……桜子の姉であり母であり妹でもある彼女が、少女の運命の道連れとなる。
「こらこら……そんな顔をしちゃ、また華恋が首を吊っちゃうよ?」
「大丈夫です左霧様。私はそこまで精神的に弱い女ではございません。ちょっと抗鬱剤を多めに飲んでしまうくらいです」
「十分危ないんだけど……」
メンヘラな女ほど危ないことはない。たまには華恋の話し相手になってあげようと決意した左霧だった。
少し不満そうだったが、自分が強くなりたいという思いは本当だ。若干六歳の小さな少女は、その血筋からなのか力が欲しいという言葉に二言はない。
「華恋、よろしくね!」
「はい桜子様。ただ、この華恋、稽古となると少々……鬼とならせていただきますが」
「か、華恋? 怖いよ……?」
華恋の後ろから般若の影が映った。妖しい笑みを浮かべる女中にたじろぐ桜子。その背中をポンポンと叩いて左霧は励ました。
「よろしくお願いします!」
「その心意気や結構。この華恋、粉骨砕身で桜子様の稽古を努めさせていただきます」
ここに新たな師弟関係が誕生した。その見目麗しい立会いを、左霧は嬉しいような悲しいような思いで眺める。
「いっぱいお稽古して、わたくしもおにーさまを守ってあげる! だって大好きだもの!」
泣きそうになった。泣いていないだろうか? 華恋に無言で問いかけた。彼女は無言で首を横に振った。顔を手で隠しながら。
「い、いつか」
「ん? なぁにおにーさま? よく聞こえないわ?」
「いつかきっと」
「おにーさまよく聞こえないったら!」
もごもごと口を動かそうとするが震えて思うように言葉に出来ない。そんな兄に首を傾げながら興味を失ったのか華恋の方へと向かっていった。
「華恋ったらどうしたの? お腹でも痛いの? 痛いの痛いの飛んでいけー!」
「うっ……ううっ……ズビズビ……チーン あでぃがだぎじあばぜにございばずる!」
しゃがみこんでしまった女中を摩りながら心配そうに眉を潜める妹。元気で優しく育った。自慢の妹。
「いつかきっと君が――――僕を殺してね」
その言葉は、誰に聞こえるでもなく風に乗って消えた。暖かい気温と穏やかな昼過ぎ。季節は春。桜は散り、若葉の茂る新緑の季節へと移り変わろうとしていた。
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