いつか
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僕たちの――――」
そこまで言い、左霧は躊躇した。その言い方ではあらぬ誤解を招いてしまいかねないからだ。
「その人は、霧島家で一番偉い人だよ」
「まぁ! わたくしってばそんな方とお話したのね! わたくしが挨拶したら笑ってらしたわ! どこかおかしなところはなかったかしら! 恥ずかしいわ!」
凄いわ凄いわと騒ぐ桜子の姿を不安な表情で見つめる左霧。優しい? 笑っていた? 到底想像できない言葉が、左霧のその人の人物像を否定した。だって、自分はその人の笑った顔をも優しそうな声も聞いたことがないからだ。脳裏に掠めるのは、冷徹な瞳。淡々とした仕草。辛辣な言葉。
あの人はきっと人じゃない、怪物だ。自分という自我が確立された時から、左霧はそう感じていた。
それもそうだ、だってあの人は彼の――――いやそんなことはどうでもいい。それよりも桜子に接触を図ったことだ。それはつまり――――
早すぎる。まだ小学生だ。この歳で、束縛されるのというのか? しきたりに。運命に。宿命に!!
「おにーさま? ……ゴメンなさい。わたくし……」
「……え?」
「左霧様、落ち着いてください。酷い顔です。せっかくの男前、が台無しですよ」
華恋は『意地の悪い』冗談を言いからかったが、内心は彼女も穏やかではない。主人の命令は絶対だ。そして左霧も主人には絶対服従だ。そう当主、霧音様には絶対に逆らうことなど出来ないのだ。
決断の時は、もう間近に迫っていた。否。迫っている。
左霧の痛々しい表情に落ち込む桜子の頭に再び手を置いた。柔らかい肌。暖かい体温。艶やかな黒い髪。何もかもが『彼女』にそっくりだ。
その頭部にある、呪われた宿命さえ、なければ。呪ったのは左霧。祝福を与えたのは彼女。何もかも、自分の血筋のせい……。
「華恋、頼みが、ある」
「はい、左霧様」
「君の仕事をしてくれ」
「私の仕事は、霧島家の家事全般でございます」
「本当の仕事は?」
背を向けたまま、左霧は震えていた。その体を温めることが出来たなら、そう華恋は思った。だが、自分にその資格はない。自分はそれをしてはいけない。本来、自分は彼と過ごすことすら、罪にあたるのだ。
華恋は胸の前に手を当て、その存在理由とも言える自分の生まれた意味を言葉にした。全てを受け入れた青年と、何も知らない純粋無垢な少女が並ぶ縁側に立って。
「私は、鬼を滅する者。桜子様を守る刀」
「……よろしくお願いします」
「左霧様……」
振り返った主は穏やかな笑みを浮かべていた。なぜそんな笑顔を浮かべることが出来るのか。華恋には理解出来なかった。あまりにも理不尽過ぎる運命に、抗いもせず、彼はただ笑った。
「桜子、魔術は教えることは出来ないけど、霧音様が言っていた力は君に、君にしか使
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