いつか
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い! 諦めなければきっとなんとかなるよ!」
「体育会系は結構ですが、不可能なのです」
「だって、おにー様はどうして使えるの!? ずるい! ずるいわ!」
こうなると止まらない。兄が出来て自分が出来ないわけがない。幼いながらも傍にいる兄に対して劣等感に苛まれることがあるのだろうか? それともただ単純に不思議な力に憧れを抱いているのだろうか? はたまたこの家の血筋が成せる『力』を求める故になのか……兄の一番近くで、その力の一端を一番間近で見てきた少女の目には、一体どんな感情が渦巻いているのだろう? 忘却しているとはいえ、こう何回も同じ説明をさせるということは、よほど執着があることは間違いない。
華恋が困ったような笑みを浮かべた。ここは自分の番だろうと、スカートの裾をキツく握り締め、ぶすくれた顔を俯かせる妹の下に、左霧はしゃがみこむ。そして絹のようになめらかな髪をゆっくりと撫で上げた。
「おにーさま……」
「桜子。桜子はどうして魔術が使いたいの?」
「おにーさまのお役に立ちたいからです! それに強くなりたいからです! 霧島の女は誰よりも気高く強い女子になりなさいと、霧音様がおっしゃっておりましたわ!」
突然、その名前が出たことに驚いた。桜子がその名前を知っていたことに。あの人の大切な桜子。あの人が唯一愛する自らの血縁。一体桜子とどのような接点があったのだろう? 自分の知らないところで知られざる会話が繰り広げられていたことに不安を覚えた。
「霧音様に? 華恋?」
咄嗟に華恋の方へ顔を向けたが、苦い顔で首を横に振った。華恋すら把握してない。
「あのね、昨日ね、霧音様からお電話がありましたの。私が受話器を取ったの。そしたら霧音様というお名前の人でしたわ。『霧』の名前は私たちのどうほーなのですよね? その人がおっしゃったの。桜子、強くおなりなさいって」
知らなかった。昨日は夕方遅くまで雪子と話し込み、集中していたため、電話の音に気がつかなかったのだ。迂闊だった。自分が気をつけていれば、あの人に接触させることはなかったのに。
――――本当に? そんなわけがない。華恋だっていたはずだ。戦慄が左霧の体に降りかかる。おそらくこうだ。『自分たちに聞こえない波長あるいは桜子に特定した波長の音を出す』術を使ったのだ。間接的に、容易く簡単に!
おそろしい人だ。それは分かっていた。自分がどんな小細工を要いても、あの人が本気になれば自分はいつもな無力な子供なのだ。そんなことは分かっていた。分かっていたのだ。そう言い聞かせ、左霧は自らを落ち着かせた。
「とてもお優しそうな方でしたわ! おにーさま、あの方はどなたなの? わたくし、小さな時にどこかであったような気がしたのだけれど、思い出せないの」
「桜子……その人は、
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