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魔導兵 人間編
私は何者
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サリと翻し、鋭利な目を真っ直ぐに左霧に向けた。その姿に、不覚にも左霧は見惚れてしまった。

「ふふん。嬉しいでしょ、先生?」
「――――僕のことは、気にしないで。君は、あくまで君だけの為に力を使うべきだ」
「――――は?」

 だけど、左霧は拒絶した。自分の為に、そんな危険なことを犯す必要はない。まるで、自分のことなどどうでもいいような、そんな風に捉えてしまうのは雪子の気のせいだろうか。
 自分の好意を無下にされたことよりも、年老いた老人のように達観した左霧の目が雪子は気に入らない。気に入らないったら気に入らないのだ。目玉が飛び出すくらいビックリさせてやりたい。優しそうな目で見ないでほしい。あなたは命が惜しくはないの? 雪子の疑問は膨らむばかりだ。
 悪魔と契約した人間はその生涯を全うした後、魂を狩られ悪魔界へと誘われる。雪子は悪魔界という言葉を聞いただけで震え上がりそうになる。あんな怪物がたくさんいる場所で自分の魂が過ごさなくてはならないなんて、絶対にごめん被る。だが、この先生と来たら、

「きっと、そんなに悪い所じゃないと思うよ、うん」
「悪い場所に決まってるでしょ! 私たちあの乱暴な悪魔に襲われたのよ! 死にかけたのよ!?」
「ん〜……でも、律儀に契約なんて面倒なことしてくれたでしょ? その気になれば、殺すことだって出来たはずなのに」
「! それはっ! 確かに……」

 ヴェルフェゴール、とか言ったか。あの赤髪の悪魔は雪子たちを弄ぶだけ弄んだあと、気が変わったように左霧と契約を取り付けたのだ。本来、人間が悪魔に勝つことなど不可能だ。にも関わらず、悪魔という生き物は基本的に契約を律儀に守るのだ。そのあたりは、人間よりも正直なのかもしれない。

「きっと管理が行き届いているんだね。むやみに人の命を刈り取らないようにって」
「そんなの……当たり前よ。あんなのがたくさん現れたらたまったもんじゃないわ」
「そうだね。できればもう会いたくはないね……さて」

 左霧は時計を確認し、立ち上がった。それは雪子にとって、胸の高鳴るお勉強の時間。昼間の授業などよりも刺激的で、興味深い。左霧という先生が、ようやく先生らしくなってくれる唯一の時間。

「魔術の勉強を始めよう、雪子さん」
「はい、先生」

 その時だけは、雪子も素直に従うことが出来るのであった。だが、決して左霧の言う通りになどしない。この精神年齢が八〇くらいのおじいさん先生をある意味で生き返らえたい。その為には自分のような若くて美人な娘が必要なのだ。雪子は勝手にそう解釈しながら生き生きとした表情で放課後の特別授業に勤しむのだった。

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