居場所
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発的な態度に、左霧は半眼で『彼』を睨んだ。とうの本人は涼しい顔で笑っている。何度見ても変わらない。いつも自分のことをからかい、弄ぶ。あの時、決して自分は舞台に立たないと言い張ったくせに。気まぐれにこうやって話をしにきては、自分のことを咎め、否定し、去っていく。遊び。彼にとって、この世に起こる全てことが享楽に過ぎないのだろう。
「何か用なの? それとも僕をからかうだけならさっさと帰って」
怒っても無駄だ。自分が挑発されればされるほど、彼は楽しいのだ。思い通りになど決してならないと決意し、左霧は冷たく言い放った。
「そう怒るな。せっかくいい情報を持ってきたというのに」
「いい情報? 君がそういう時は大抵くだらない内容だけどね」
「既に動いているぞ。――――天王寺が」
何でもないように鏡の中の自分は言い放った。退屈そうにあくびをしながら。左霧の体に冷たい汗がよぎる。まさか? なんで? どこで? どういうことだ? 頭をフル回転させて、状況を読み取る。その姿がおかしいのか、また鏡の中の自分は笑っていた。
「せいぜい気をつけろよ。お前が弟子の教育などというくだらない遊びをしている間に、その弟子が殺されてしまうかもしれないからな。クックック……」
「させないよ。僕が、雪子さんを、華恋を、そして桜子を……守るから」
「守ることに何の価値がある、とは言わないでおこう。どうせ俺にはわからんことだからな。お前の尖った目を見るのもいささか飽きてきた」
「君は、勝手だよ。いつも勝手だ。全部僕に押し付けて、傍観者を気取って……」
口を噛み締めて、左霧は鏡を睨む。その手で、鏡を叩き割れたらどんなに爽快な気分だろう。だがそれには何の意味もない。いつの間にか握り締めていた拳をゆっくりと開く。彼が憎いわけではない。嫌いなわけではない。だが、そう、気に入らないのだ。
「お前は、俺だ。暇つぶしに生まれたもうひとりの俺。どうしようとお前の勝手だが……死んでもらっては困るぞ。悪魔の件は正直どうでもいいが……いささかこの世に未練があるからな」
そう冗談なのか本気なのか分からないことを言い放ち、彼は去っていこうとした。だが、急に思い出したようにこちらを向き一言だけ、
「桜子を頼んだぞ」
それだけ言って消えていった。それはどうやら彼にとって重要なことだったらしい。全てにおいて興味を示さない、彼が、唯一興味を示した対象。ただそれだけなのだ。それだけの理由。
「わかっているよ、左霧」
所詮自分は彼のおもちゃ。分かっていたのに、それを言葉にするのは、ひどく惨めに思え、自分を哀れむ自分自身が嫌いになる。自分に感情を与えた彼を呪いたくなることすらある。
それでも左霧は笑顔でいる。自分の場所を手に入れたから。他でもない自分
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