弟子
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なかった。ただ一つを除いて――――。
「魔術師は動き出しているぞ、左霧。天王寺の一派がな」
「……くっ……僕は」
こんなことの為に、学園に赴任したかったわけではなかった。だが、学園長は、おそらく最初からそのつもりで自分を採用したのだ。初めから自分の『そちら』の能力にしか興味がなかったのだ。
「お前が、なぜそこまで魔術を遠ざけようとするのか、まぁ私もわかる。母親だからな……。妹を、巻き込みたくないのだろう?」
「――――!」
桜子! 自分の命よりも大切な少女! 自分の良心回路だと言ってもいいだろう! あの子がもし、もしだ、もし命を狙われ、死ぬようなことがあった場合? ああ! あった場合、自分はどうなってしまうのだろう? そんなことは考えたことがなかった! 考えたくなどなかった! だが時はそれを許さなかった。まだ六歳だぞ? それなのに! それなのに連中は、あの子の命すら平気で摘み取るのか?
――――やるに決まっている。左霧は確信した。その確信に足り得る経験を、自分はもうしたではないか? 無力で無垢な笑顔を、残忍に奪ったではないか。
「先生、私――――やります」
「雪子さん……?」
「やっぱりいけないと思うんですこのままじゃ。悪魔との契約って危険なんですよね? その他のことはわかりませんけど、でも私がお役に立てるなら、その、お願いします」
それまで黙っていた雪子は、左霧の尋常ではない戸惑いに助言を処した。その目は決意と迷いを帯びていた。若くて、純粋で、愚かだと左霧は思った。
「今までの生活が、一変するかもしれないんだよ?」
「あんなの見ちゃったらもう仕方ないっていうか……確かに恐い思いはもうしたくないけど、逃げることは――――もっとしたくないから」
逃げる? その言葉は、まるで左霧に向けた言葉のように思えた。もちろん雪子は、自分自身に言い聞かしているだけのはずだ。そう思うのは、そうだ。
自分が、現実から目を背けているから――――。
「学園長、まだ雪子さんへの処遇は保留状態でしたよね?」
「ああもちろん。煮ようが焼こうが君次第だ」
そういえばまだそんなのがあった……。雪子は頭を悩ませた。母はこんな時、非情である。いずれにせよ、先生の意見はまとまったようだ。さっきよりは顔色がいいし、何か吹っ切れてようにも見える。昨日、自らの命を呈して守ってくれた時のような姿、悔しいが格好良いと思えた。――――次の発言さえなければ。
「じゃあ、雪子さんを僕にください」
「はぁ!?」
「よかろう! 大事にしてやってくれ! 口先は悪いが、器量はいいからな。あと――処女だ!」
「ちょっとお母様!? 何言ってんのよ!」
「よろしくね! 雪子さん!」
「よろしくね! じゃない! あんた言
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