悪魔
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ような笑顔を持つ少女は。
左霧は少しの間、昔の出来事に思いを馳せていた。
「……は! こんなことしてる場合じゃなかった!」
しばらく物思いにふけっていた左霧は、思い返したように現実に戻る。ブルブルと頭を振り、頬を叩き、気合十分。いくつかある小部屋を調べて回ろう――――そう思った矢先。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
つんざくような悲鳴が教会内に響き渡った。
左霧は咄嗟に悲鳴の聞こえた位置を把握する。
一番手前の部屋。考える暇などない。生徒の悲鳴。それに間違いはない。
悲鳴と共に赤く歪な光がドアから溢れ出している。嫌な予感がする。華恋の言った言葉を反芻した。
グッと手に力を込め、左霧はドアの方へ向かった。迷うことなどあろうか。例え、その先に危険が待ち受けていても。彼は躊躇しない。妥協しない。後退しない。
そういう風に出来ているのだから――――。
血の契約書、呪文、魔道書。全ては彼女――――雪ノ宮雪子の下にある。
彼女は力を欲している。『魔術』という忘れ去られた力を。
ラグナロクによって消失した、元々人類が持つことを許された力。それは時代と共に風化した。しかし今のなお知る人ぞ知る、神秘なのだ。
「我が声に耳を傾けたまえ……」
ナイフで薄く切りつけた腕から血が滴る。その血で召喚術の『門』を作る。『セイレイ』と呼ばれる存在を呼ぶための門。セイレイ界と人間界を繋ぐ糸。
魔道書で得た知識を、拙く辿り、ようやくここまでたどり着いた。読み解くのにかなりの時間を費やしたことが苛立たしい。一分一秒でも惜しい。自分は早く力を手に入れたい。
そして――――そして。
「雪ノ宮雪子が命じる。我が前に御身を現したまえ! セイレイよ!」
魔導書に書いてあるとおりにやった。後は待つだけだ。雪子は、興奮と恐怖の入り混じったような感情を持て余している。鬼が出るか、それとも蛇が出るか……いずれにせよ、自分に強大な力が手に入ると疑わなかった。
「……? どうして! どうしてよ! 書いてある通りにやったじゃない!」
何も起こらなかった。埃だらけの室内はただ静まり返っている。先ほどと何一つ変わっているものなどなかった。
「また……失敗。……くっ! いつになったら私は!」
奥歯を噛み締め、雪子は悔しさを滲ませた。腕の切り傷からはまだ血が滴っている。ここまでしたというのに、何も変化は起きなかった。
「バカバカしい、何が魔術よ! 大嘘つき!」
魔道書として大事にしていた本が途端に悪意の対象となった。乱暴に叩きつけ気を紛らわせる。
また最初から――――。自分の情けなさに泣きたくなる。何年も、何年も、必死で追い求めてき
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