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魔導兵 人間編
悪魔
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。どうやら桜子がつまみ食いをしたらしくバタバタとした騒がしい音が聞こえた。その微笑ましい光景を想像しながら再び左霧は夜の闇へと足を運ぶのだった。

「これはまた……なんというか、出そうだね」

 古びた南京錠に鍵を差込み、苦戦すること五分。ようやく鍵を解くことに成功し中に入った。中と言っても教会の外を囲っている門を開けただけでまだ教会内部に入っていない。
 ぐるりと周りを見渡しただけでも、庭は荒れ果てていて鬱蒼としている。どうやら管理自体も全くしていないようだ。
 教会自体は大きな門を中心としたヨーロッパ風の建物だ。建てたのは相当前のようで所々から小さな破損が見られ、哀愁が漂っている。
 懐中電灯を持ちしばらく立ちすくんでいた左霧だったが、ようやく勇気を振るい立たせ入口へと手をかけた。

「よ、よし……が、頑張れ、僕」

 ブツブツと傍から見れば不審な様子の左霧だが、幸い辺りには人一人いない。思い切って扉を開け、暗闇が続く教会へと遂に足を踏み入れた。


 ギシギシと歩くごとに床の板が軋む。抜け落ちて穴になっている場所を見極めながらゆっくりと奥へ進んでいく。月の光もない新月では懐中電灯の心細い光だけが道しるべだ。埃っぽい室内と蜘蛛の巣を払いながら教会の奥――――祭壇らしき場所へ近づいていった。

 ホコリのかぶったオルガン、救世主、神の像。大きな十字架……かろうじて教会としての体裁を整えているぐらいの機能しかない。巡礼者用の場所も少ない。普通の教会の間取りとどこか違う。直感的に左霧はそう感じた。電灯で更に辺りを見渡す。と、光に反射して暗闇の中から大きなステンドグラスが姿を現した。

「天使……」

ステンドクラスは美しい天使の姿を体現していた。羽は六枚で黄金の杖を振りかざし人々に祝福をもたらしている。人々は荘厳な天使の姿に跪き、感謝しているようだ。

「……これは……」

 その隣にもステンドグラスがあるのだが、そちらの方は残念ながら欠けてしまっている。天使たちが武器を持ち、何かと戦っているようだ。おそらく『ラグナロク』と言う、人類最大の過ちを犯した時代の出来事だろう。
 ラグナロク――――力を持った人類は、神々に戦いを挑んだ。人類はやがて『悪魔』と呼ばれる者と契約を結び、天界へたどり着く。数万の天使たちと神々に愚かにも人々は牙を剥いたのだ。結果は人類と悪魔の負けに終わる。この時、二度とこのようなことが起こらないように神は天界の門を閉じたのだ。神は人類に罰を与えた。それにより、人は弱く脆い生き物として生まれることになった。
ここまでが、左霧が知っている話。いつか大切な人に聞かせてもらった遠い記憶。
――――彼女は、天使になれただろうか。
あの、優しく甘い花のような匂いのする少女は。
全てを愛し、慈しむ
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