電話
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甘えてきた。その子のサラサラな黒髪を愛おしいげに撫でながら昨日思案していた場所を告げようとした時、
ジリリリリリリリリリリ――――。
「あっと、電話だ」
霧島家の古風な黒電話が鳴り出した。玄関越しに置いてある、アンティークショップに売れば値打ち物になると華恋が断言したほどの骨董品だ。左霧は慌ててその年代物の重たい受話器を取り、ひと呼吸つきながら自らの名前を告げた。
「はい、霧島です――」
「……左霧ですか? 久しぶりですね」
思わず息を吸うのも忘れてしまった。それほどまで、今電話越しに向かい合っている人物が左霧にとって強大な存在だったからだ。
やがて無言のままでは失礼だと気がつき、背筋に凍りつくような緊張感を保ちながら、ゆっくりと相手へ言葉を紡ぐ。
「……霧音(きりね)様、お久しぶりでございます。新年は挨拶にも出向かず誠に申し訳ございません」
「良いのです。あなたはもう霧島家とは縁も由もないのですから」
事務的に、冷たい声が耳元で鳴り響く。冷たいというのは言葉のことで、決してこの人物の口調ではない。感情の起伏を感じられない、生きた心地のしない声。機械のような、淡々とした声色が数年越しに彼の耳元へと伝わってきた。
「……本日は、どういったご用件でしょうか?」
内心の思いを押し殺し、左霧もまた事務的に答えた。世話話をする間柄とはお世辞にもいえない。お互いそれを割り切っているからこそ、ここまで冷静に会話が出来るのだ。少なくとも左霧はそう思っている。
「――――ええ……そう、そう……用件、でしたね」
「? 霧音様? どこか具合が悪いのですか?」
電話越しに対話している人は、くぐもった声で途切れ途切れに言葉を紡いだ。怪訝に思った左霧は失礼と思いながらも聞かずにはいられなかった。少なくとも、彼が知っているその人は今のような弱々しく、かすれかかったような声で対話などするわけがない。威厳と畏怖を併せ持つ、言葉の一つ一つがまるで自分を支配するようなそんな喋り方をする人だった。
「いいえ。心配せずとも大丈夫です」
「……そうですか」
また一つの静寂。そろそろ出かける時間なのだが、どうしたものか。相手はどういうともりで電話をかけてきたのか、今さら自分という存在に価値を見出したとでもいうのだろうか。少なくとも親切心などという淡い幻想は抱かない。だとしたら何だ? だとしたら――。
「霧音様――」
「桜子は、元気?」
その瞬間、その人の目的を左霧は悟った。悟った上で表面上は取り繕うことにした。数年ぶりに我が家に接触してきた訳。決して思いどおりになどさせるものか。自然と握りしめた拳を更に深く握る。
「桜子も華恋も元気にやっています。私は学園の教師になりました。これからも彼
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