苦悩
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驚いて下を見下ろすと、そこにはあどけなさの残る、小さな少女が立っていた。今日も今日とてヒラヒラとした人形のような衣装の着て、教務室に謎の雰囲気を作り出す少女。 雪ノ宮雪江は今日も学園長らしくない学園長だった。
「学園長……驚かせないでください」
「ふん、君が鈍感なのが悪いんだ。それでも霧島の血縁か?」
不満そうに両手を組み、雪江は左霧を半眼で睨んだ。
それを言われたら、はい、と返すしかないため左霧は頭をかいてごまかすしかない。その反応が好みだったらしく雪江は更に不敵な笑みを浮かべ、隣のイス――砂上の席に遠慮なく座り込んだ。
「教師の資格がない、って言われちゃいました……」
左霧が正直にそう答えると、雪江も流石に思うところがあったのか、穏やかな声で静かに語った。
「そんなものを最初から持っている奴などどこにもいない。ああ、教員免許は持っているんだろうな……? ふむ、ならば今はそれでいい。技術など嫌でも身につく。今必要なのは勉強、努力、経験……そして」
「……そして?」
左霧が聞き返すと、また雪江は不敵に笑い、小さな親指をゆっくりと左霧の胸元に突き刺す。
「君という存在だよ、左霧。君は失礼な男だが……決していなくなっていい人材ではない。必要とされているんだ。その事を心に留めておくといい」
「……が、学園長! 感激です!」
「ムフフフフ……ってまた頭を撫でるな! このたわけ!」
雪江はしばらくされるがままになっていたが、すぐに学園長の威厳を取り戻し、持っていたパイプで左霧の額を殴打した。それでも笑っている左霧は、どこか不気味な姿だった。
「痛い! でも僕、嬉しいです!! 必要な人材、必要な先生……」
至極単純な思考回路だな、と雪江は思った。この程度で教師のご機嫌がとれるのなら容易い。雪江は左霧の浮かれっぷりに呆れを通り越して関心してしまった。
「左霧」
「あ、はい。何でしょうか、学園長?」
嬉しそうに教務室を飛び回っている左霧を呼び戻す。迷惑そうに見ている他の教師の為と、左霧に会いに来た理由を告げるために。
「雪子を、頼む。勝手ながら、これは親、保護者としての頼みだ」
その言葉に、左霧は強い念を感じた。自分は生徒たちの親から子供を預かっている身なのだ。ここに、頭を下げ、てはいないがどうやら本当に母親らしい学園長が、頼むと言っている。
左霧に言えることはただ一つだった。
「雪江さん、副担任ですけど雪子さんのことは僕にお任せ下さい! 雪ノ宮家の令嬢として、一生徒として、僕がしっかりと彼女を守ってみせます! ……といっても彼女はしっかりしているので、僕なんか必要ないと思いますけど」
最後が締まらない半端な宣言だったが、
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