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魔導兵 人間編
苦悩
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をしてその場から去っていった。その歩き方もまた、精錬されたようで、ヒールでも履いていたら『カツッカツッ!』音を立てていたかもしれない。
 いずれにせよ、左霧はダメ出しをされてしまったのだった。

「ううう……」

 ダメージの強さに思わず呻き声を上げてしまった。どうやら皆が皆、心の広い生徒たちばかりではないらしい。

「雪子さん、か……」

 昨日、左霧だけ念を押されたわけが何となくわかった。自分が受け持つクラスに、娘がいるとなれば、それはプレッシャーをかけるもの当然だ。自分のような新米教師なら余計気にもかける。

「せんせードンマイ! そういうこともあるって!」

 先ほどの会話を盗み聞きしていた一部の生徒たちが教室から顔を出して笑っていた。左霧はバツが悪そうに頭をかくことしか出来ない。

「さっすがきっついなぁ〜学園長の娘!」

「私なんて怖くて話しかけれないよ〜」

「なんか冷たいイメージあるよね……だがそこがいい!」

 どうやら雪子に対する生徒たちの評価はそんなところらしい。だが、決して悪意があるわけではなく、ただ単に憧れているようだった。
 雪ノ宮――というのはこの辺一帯を占めている地主の名で、学園にある莫大な敷地も全て雪ノ宮家のものなのだ。
 つまり、学園長――雪江は学園の長でありながら大地主の元締めも担っているということになる。そして、その娘となれば、もちろん正真正銘のお嬢様なのだ。

「清楚で、可憐で、気高い……私も雪子さんに罵ってもらいたい!」

「私も!」

「私も!」

「先生もこの気持ち、分かりますよね!?」

「ごめん、皆。ちっとも分からないよ……」

 恍惚の表情を浮かべたうら若き少女たちの気持ちには、左霧は上手く答えることが出来なかった。訂正、彼女たちは雪子によからぬ感情を抱いているようだ。
 先ほど言われた言葉が、意外にも左霧の心に深く突き刺さっていた。
 ――あなたに教鞭を振るう資格があるのか?
 悔しかった。初めてとはいえ一人の生徒に不安を抱かせてしまったのだ。授業のことも、生徒たちとのやり取りも、何が正しくて、何がいけないのか、その判断すらも今の左霧には分からなかった。

「よし……悩むの終わり! 教務室に戻ってさっきの授業のおさらいと、資料チェックしなきゃ!」

 雪子に言われたことは気になるが、今悩んでも仕方がない。クラスの生徒たちに別れを告げ、左霧は教務室へと勇み足でかけていくのであった。


「クックック……早速我が愛娘に接触したようだな。霧島の」

 教卓でプリントとしばらく睨みあっていたところ、舌っ足らずな声がどこからか聞こえた。左霧は重い体を上げ辺りを見渡す。

「ここだ、ここ! 君の目の前だよ!」

 
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