月
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もちろん華恋も半分冗談だったので、桜子の髪を優しく撫で、少女の無垢なる罪を許した。
「さぁ、桜子様。外はまだ寒うございます。中で暖まりましょう?」
「うん……!」
華恋の手を繋ぎながら笑顔で頷く桜子。その変わりように苦笑しそうになる左霧だったが、月の光で照らされた二人が、どこか神秘的で思わず笑うのをやめた。その姿が、とても美しいと思ったから。
「おにいさま?」
「え……?」
「何をしているのですか左霧様、早くしないと月九が始まってしまいます!」
二人に呼びかけられ、ボーッとしていた自分にようやく気がつく。気を抜くとすぐ呆けっとしてしまうのは彼の悪い癖だった。だが、それも平和の賜物であると自分では思っているので案外図太い性格なのかもしれない。
「今行くよ」
「早くしてくださいませ! 私っ昼ドラと月九を見なければ、眠れないたちなのです!」
「暇そうだね……華恋」
「……言わないでください」
女中はどうやら日中暇らしい。何か彼女にも趣味の一つや二つ、あればいいと思うのだが。ドラマだけが生きがいのような言い方では、近所のおばあちゃんたちみたいで少し可愛そうである。
「私は、明日の絵の具道具の忘れ物がないか確かめてきます!」
「あはは……桜子ったら、さっき点検したばかりじゃないか」
明日が楽しみで仕方がない桜子は、興奮気味に家の中に入っていった。
とても賑やかに霧島家の夜は過ぎていく。月はまるで祝福するかのように彼らを照らしていた、というのはいささか言い過ぎかもしれない。しかし左霧は、願わくは、この平凡な毎日が一生続けばいい、そう願ってやまないのである。少なくとも桜子が成長するその日までは、と願ってやまないのである。
否、そうすると、自らの心に誓うのであった。
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