月
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満月が浮かび上がっているのを見て、思わず立ち止まる。
空気が澄み渡っているのか、とても綺麗な満月だった。
「満月……」
左霧は、少し昔のことを思い出した。今、こうして自分が働きながら生計を立てていること。家族がいること……何もかもが夢のようだった。月を見ていると、どちらが幻かわからなくなる時がある。夢か現か……それを確かめる声もまた、
「左霧様? こんなところにいたのですか? 風邪を引いてしまわれますよ?」
「おにいさま? あ! お月様! おにいさまはお月様を見ていたのね!」
「うん、とっても綺麗だよ。桜子おいで?」
桜子をそのまま抱きかかえ、一緒に月を眺める。華恋と共にお風呂に入っているのか、石鹸とシャンプーの匂いが左霧の鼻腔をくすぐった。
華恋も乾かないしっとりとした髪をなびかせながら、二人の隣へと、遠慮がちに寄り添った。
「おにいさま、月にはうさぎさんがいるんですよ? お餅をペッタンペッタンついているのです! 美味しそう……」
「桜子ったら、さっきご飯を食べたばかりだよ? 僕はカニさんがいるって聞いたことがあるなぁ」
「私はライオンがいると聞いたことがあります」
「えー! ウサギ! 絶対ウサギだよ!」
「カニかもよ?」
「ライオンです」
そうすると桜子は頬をいっぱいに膨らましてたちまち不機嫌そうになる。バタバタと暴れて自分の主張を譲らない。やはりちょっとワガママに育ってしまったなと、左霧は苦笑した。
「ウサギさん! 絶対にウサギさんです!」
「どうしてそう思うの?」
「だってそっちのほうが可愛いです!」
どうやら桜子の基準はそこにあるらしい。カワイイは正義。カワイイは最強。
「ですが、ライオンも飼い慣らせばきっと可愛い……」
「うー! ウサギだもん! 華恋嫌い!」
「左霧様、今までお世話になりました」
「待って! 庭の木で首を吊ろうとしないで! っていうかいつの間に縄持ってきたの?」
自分の意見を言おうとしただけなのに、即座に否定され、挙句自らの敬愛する主人に嫌われてしまった華恋は、迷惑なことに庭の木で首を括ろうとしていた。それほど、彼女にとってショッキングな出来事だったのだ。
「桜子、そういうこと言っちゃダメでしょ? 華恋に謝りなさい」
「だって……」
「だってじゃないでしょ? 僕たちはいつも華恋にお世話になっているじゃないか。桜子は、簡単に人を嫌いなる子なのかい?」
珍しく兄に注意されて、少し涙目になった桜子。だが、兄の気持ちが通じたのか、兄の体を降りて、華恋の服に縋りつきながら、
「華恋、ゴメンなさい」
と呟いた。根が純粋なので、言われたことはすんなり受け止める。
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