月
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しない。
「……何だか、帰りが遅い旦那を咎めている奥さんに見えませんか? 可愛くありませんか?」
「ひょっとして、それがやりたかっただけ?」
「さぁ夕飯はとっくに出来ております。どうぞ中へ」
何事もなく左霧のカバンを持ち、さっさと中へ入っていった華恋。なぜ自分の家に帰ったのに疲れる思いをしなければならないのか、左霧は疑問に思うのだったが、華恋は気まぐれなのであまり気にしないことにした。
「桜子、初めての学校はどうだった?」
夕飯を食べながら、今日一番聞きたかったことを言葉にした左霧。桜子は待ってましたとばかりに爛々とした目で詳細を告げる。
「おにいさま! 私ね! 三人も友達が出来たの! 一人はみっちゃんで二人目はさっちゃん! 三人目はともちゃん!」
「よかったじゃないか桜子! やっぱり僕の妹だなぁ」
「いえ、それはあまり関係ありません、と華恋は思います」
「あっはっはっは……僕もそう思う」
女中の鋭いツッコミに耐えられず肩を落とした左霧。その肩を優しく叩く華恋は、どこかうっとりした表情だった。この女中、かなりSの気があることを否めない。
「明日ね、図工の時間に一緒にお絵かきするの! 楽しみ!」
ちゃぶ台をガチャンガチャンと揺らし、お茶碗をグワングワンとかき混ぜながら口にはいっぱいの米粒をつけながら左霧に向けてその米粒ごと伝えた。声が大きいだけあって大きく口を開けているので、凄まじいほど米粒が飛ぶ、飛行する。
「そっかぁ、よかったねぇ……」
「よかったね、ではありません。桜子様、お行儀が悪うございます。左霧様もちゃんと注意してください」
「う〜ん……よかったねぇ」
「……ダメだこの男」
吐きつけるように毒舌をかました華恋は、桜子の口元の米を一粒ずつ綺麗に取った。当然左霧には布巾を投げてさっさと拭けと促すだけである。
「桜子様、華恋は悲しいです。私の料理は美味しくないですか? これでも安月給の左霧様の為に美味しく栄養バランスのいい献立を考えているのですが……」
「ううん、美味しいよ華恋! ごめーんね!」
「ああ! 可愛さ余って憎さ一〇〇倍でございます!」
「……どういうこと?」
言いながら、華恋は桜子の頬を抱き寄せて、頬ずりをしていた。傍から見れば、仲の良い姉妹のようで、微笑ましい。躾だのなんだの言っているが、結局桜子に一番甘いのは華恋なのである。この家では桜子に躾を教えてくれる人がいない、ということが左霧の心配の種だった。本人は断固拒否していることが、一番の原因だが。
※
左霧は風呂上がりに居間で一息ついていた。庭の戸を開け放ってみたが、少し肌寒い。だが、見上げた夜空に
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