暁 〜小説投稿サイト〜
魔導兵 人間編
行ってきます
[1/4]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 満開の桜、その並木道を霧島兄妹と女中が歩いている。周りには、桜子と同じ年の子や、もう少し上の子が、朝日の下、元気に登校していた。
 そう――今日は桜子の入学式なのだ。訳あって、保育園には通えず、自宅で過ごす日々が多かった桜子は、この日を今か今かと待ちわびていた。新品の制服と帽子に身を包み、背中には真っ赤なランドセルを背負い、少し緊張気味に前を歩く桜子を、暖かい目で見守る二人。まるで子供を見守る親のような心境だ。

「桜子、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。桜子ならすぐ友達が出来るはずさ」

「そうですよ桜子様。私が昨日教えた挨拶で、友達一〇〇人、いえ二〇〇人は堅いです」

「はい! おうワレ、ちょっとツラ貸せや、ですね! ちゃんと覚えました!」

「桜子の小学校デビューが黒歴史になっちゃうよ!?」

 子供にも容赦なく自らのネタを仕込む恐ろしき女中。左霧は慌てて華恋が教えたワードは絶対に使ってはいけない言葉、むしろ忘れなさいと注意した。危うく入学そうそう、桜子の夢が潰えるところだったのだ。

「華恋、頼むから桜子に変なことを吹き込まないでくれよ」

「ちょっと一癖あった方が、周りから注目されると思うのですが……」

「変な子って思われるだけだから! 桜子、いつも通りに生活していればいいんだよ。特別なことなんて何も必要ないさ」

 不安そうな妹の手をそっと握りながら左霧は微笑みかけた。この子ならきっと上手くいく――左霧には、そう断言出来るほどの自信があるのだ。

「……はい、おにーさま!」

 兄の励ましに、少し気持ちが落ち着いたのか、桜子はいつもどおり眩しい笑顔でまた並木道を歩き出した。

「左霧様……見てください。桜子様の姿を」

「ああ、本当に、良かった……」

「はい……」

 先ほどの雰囲気とはうって変わり、慈愛に満ちた表情で、華恋は桜子の姿を目で追っていた。目にはうっすらと涙を浮かべながら。

「あはは、華恋は泣き虫だなぁ」

「む……乙女の涙を侮ってはいけません。これは罠です、わざと見せているんです」

「ふふ……はいはい」

 華恋は不満そうな表情で軽く左霧を睨んだ。それが本当なら、わざわざ言う必要なんてない。嘘が下手な華恋の気持ちを察し、左霧は追求することをやめた。素早く他の話題に切り替える。

「カメラもあるし、入学式が終わった後、三人で写真を撮ろう」

「そうですね。桜子様の晴れ姿ですから、学校をバックにお二人で」

「華恋、僕は三人って言ったんだよ? もし遠慮しているのなら、その必要はどこにもないよ」

 華恋は、少し複雑そうに左霧と桜子を交互に見ていたが、やがて嬉しそうに小さく頷いた。彼女が左霧たち兄妹の下に来てから、かなりの月日が経った。
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ