行ってきます
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で、これから始まる彼ら彼女らの物語を、祝福してくれるかのようだった。
※
教師になりたい――それは始め、彼の夢ではなかった。元々、彼には自分の道があらかじめ定められていると諦めていた時期があったのだが、その折に、ある人物と出会い、影響を受けた。それが今になって彼の夢を叶えたのだ。もちろん猛勉強した。教養という教養を受けてきた訳ではない。もちろん最低限の知恵は、『霧島家』という家から授けてもらったが、それ以外はひたすらに命令に準じる毎日だった。
その知恵を授けてくれた人が、他でもない、後に彼が教師を目指すことになるきっかけとなるとは、彼も、その人も予想はしなかったであろう。左霧は、今自分が立っている場所が本当に現実なのか、判断がつかなかった。もし本当なら、少しは彼女の思いに報いることが出来ただろうかと、鏡に映った自分の姿を眺めながら目を細めた。
「左霧様、おはようございます。あら……」
「おはよう華恋、少し早く目が覚めちゃったよ」
額をポリポリ掻きながら、にへらと緩みきった笑みを浮かべた主人に、華恋は口を抑えてクスリと笑った。主人にしては珍しく、早起きだった。自分が起こしに来るまで、絶対に布団から出たことない男が、黒いスーツに身を包みながら鏡越しに、必死に見繕っている。その光景が、華恋には滑稽に見えた。
「今日からお仕事ですね。左霧様、最初が肝心ですよ。変にカッコつけたり、モテようとしたり、話かけたりするのはNGです。あくまでも自然体に接することをおすすめします」
「うん……華恋が普段どんな目で僕を見ているのかわかったよ……」
「冗談です。左霧様はもう少しグイグイ押していったほうが女性は喜ぶと思いますよ」
「ちょっと、何か違うよ。僕は別に合コンに行くわけじゃないからね?」
「はい? 何を言っているのですか左霧様? 朝からそういうふしだらな話はやめてください。桜子様に悪影響を及ぼします」
「…………ごめん」
なんだが、朝から災難だった。せっかく早起きしたのに、これでは損な気分になる。早起きは三文の徳なんて言われているが、明日からは華恋が起こしにくるまで、寝ていようと左霧は後ろ向きな決心をした。
「行ってきます」
「いってきまーす!」
「行ってらっしゃいませ。左霧様、桜子様」
まだ春にしては肌寒い。それもそのはずだ。四月といえど、そう初めから急激に暖かくなるわけではない。ついこの間までは、手がかじかむほどの寒さをたたえていた風が弱くなっただけでも感謝しなければならない。桜子の小さな手は、手袋を外し、その白い肌を晒しても今は平気なようだ。この間まで、左霧のコートのポケットに手を入れて離れたかったのに、少し寂しい気持ちの左霧
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