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魔導兵 人間編
内定
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いつもすまないね、華恋」

「それは言いっこなしですよ。桜子さん」

「桜子……いつの間にそんな冗談を覚えたんだい?」

「んー、華恋が教えてくれたの。かいしょーなしの男の人を慰める方法だって!」

「……ちょっと、華恋さん?」

「コ、コホン、さぁ左霧様、どうぞ席へ」

 逃げるように自分の席にそそくさと着く華恋を横目に、左霧は先ほどの少女へと目を向けた。ニコニコと笑みを絶やさない太陽のような少女だ。どれだけ疲れていてもこの子の笑顔を見るだけで吹き飛んでしまう、左霧は自然と緩む口元に気づかずに、桜子と名乗る少女に帰宅を告げた。

「桜子、ただいま。遅くなってごめんね」

「んーん! おにーさまはお仕事がお忙しいのでしょうがないのです。桜子は強い子なので、我慢できますです」

「! いや、まだその」

 仕事はまだ見つかってすらない……リストラされたお父さんとは、こんな心苦しい気持ちなのだろうか。左霧の心境は複雑だった。
 ともあれ、桜子は左霧を兄と呼んでいる。つまり彼らは兄妹である。クリクリとした大きな瞳、黒い絹のような細い髪、今年六歳になる少女は、すくすくと兄の見る前で成長を続けている。それを確認することが、左霧の何よりの幸せなのだ。

「おにーさま、にゅーがくしきまで後何日でしょうか?」

「あはは、またそれかい? あと三日だよ。随分学校が楽しみなようだね」

「はい! たくさんお友達を作って、たくさん色んな遊びをしたいのです!」

「うーん、しっかり勉強もするんだよ?」

「はい! ほどほどに頑張ります!」

 ここで、ほどほど、などと口にするのが何とも、桜子らしいと左霧は苦笑した。華恋も仲睦まじい兄妹の会話に、慎ましく口を抑えながら笑っている。
 笑顔。この家には笑顔がある。左霧は、この数年間のことを振り返った。たくさんのことが同時に起きた。大変、などと口にする暇などなかった。だからこそ、いま、この瞬間に感じる幸福のひと時を手に入れることの難しさを、誰よりも知っているのだった。

 なくしたくない。そう思えるからこそ、彼は確固たる決意を胸に明日も頑張ろうと思えるのだ。
 そう、就職戦線という名の戦争に!

霧島左霧様
 マリアナ学園採用係
 内定通知書

 拝啓 ますますのご清栄のこととお慶び申し上げます。うんぬん……。
 あなたを採用することが内定致しました。つきましては……うんぬん……。
敬具

「お、おい、華恋、かれーーーーん!! 華恋はいるかぁ!?」

「何ですか朝から? ご近所に迷惑ですよ全く……」
 早朝、庭を掃除していた華恋は赤いポストの目の前で叫び声を上げている変質者――もとい主人に呆れながら返事をした。ないやらA4サイズの紙を空高く
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