内定
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主人という肩書きをもらっているのだが、そんな威厳などまるで感じさせない。この家では、一家を守る大黒柱は華恋なのである。家庭の全てを担ってもらっている彼女に対して、左霧は頭が上がらなかった。そして、自分の不甲斐なさも伴い、とても彼女に発言出来るほどの器量が、この男にあるはずがなかった。
「左霧様、大変心苦しい、華恋は心苦しいのですが、言わせてもらいます」
「いや、心苦しいなら言わなくても」
「い わ せ て い た だ き ま す」
「――――はい」
――――頭が、上がらないのである。
「今まで左霧様の貯蓄で賄ってはきましたが、残念ながらその蓄えもそろそろ尽きようとしています。つきましては、本家に救援を頼むことを」
「――――華恋、それは出来ないよ。僕はもう、霧島家とは絶縁したからね」
「ですが、話を通せば、きっと」
「――華恋」
左霧はしっかり、女中の名を告げる。その目に宿った意志の強さに華恋は息を飲んだ。そして即座に腰を折り、主に対しての謝罪を口にした。
「――失礼しました左霧様。出過ぎた真似を」
「構わないよ華恋。言いたいことがあるのならどんどん言ってもらって構わない。君は僕たちの家族同然なのだからね」
そう言って、左霧は口元に笑みを浮かべた。厳密に言えば、華恋は女中などではない。給金を払っていなければ、他所から雇っているわけでもない。一緒の家で寝食を共にしているのだから、もはや家族も同然だ。なぜ彼女がこのような給仕の真似事をしているのかと言えば、それは本人の意志からだった。
「恐れ多いことです。私のような者が、あなた様の家族などと……ですが、言わせていただきます。甲斐性なし、穀潰し」
「あっはっは、まいったなぁ」
「――――社会不適合者、ニート、人間のクズ」
「おーい! 言いすぎじゃないかなぁ!?」
「失礼しました。――さぁ食事が冷めてしまいますから、居間へどうぞ」
本当に、自分のことを主人だと認めているのか。口元に侮蔑の笑みを浮かべならあざ笑う少女にブルブルと震えながら左霧は、自称女中のあとについて行くのであった。
居間には美味しそうな食事が並べられていた。和を中心とした彩のいい食卓だ。煮物、焼き魚、山菜、湯豆腐……これだけあれば、豪勢とは言えないが、一般家庭としては十分な食料供給である。
左霧は自分の腹が減っていることに今更ながら気がつくのだった。
左霧はこの空間が一番落ち着く。家族団らんを何よりも重んじている彼は、彼と、華恋と、そしてもう一人のかけがえのない家族を、誰よりも大事にしている。
自分と、華恋の分、そして、もう一つの食器の前には、小さな可愛らしい少女が今か今かと左霧が座るのを待っていた。
「
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