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闘将の弟子達
第五章
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う言った。
「巨人に勝って藤井寺のお爺ちゃん喜ばしたるんや!」
 その時西本は既に阪急にはいなかった。彼は近鉄の監督となっていたのだ。
「巨人はなあ、球界の癌や」
 大叔父の決まり文句が出た。とかく彼は巨人を嫌悪していた。
「その巨人を倒そうというんや。まああんだけシリーズでやられとったらそう思うわな」
 そして昭和五一年と五二年のシリーズにおいて彼等は巨人を破った。五一年はあわやというところまで追い詰められたが見事に打ち倒した。五二年は最早寄せ付けなかった。貫禄の勝利であった。
「阪急こそ最強や!」
 そう言う者は少なかった。残念なことに。だが野球を知る者は皆そう言った。
「我が国にはほんまに野球を知っとる奴はあんまりおらんわ」
 サイダーをお替りした大叔父はそう言った。
「そやけど御前にはほんまの野球を見せたったで」
 それが西本さんや、大叔父はそう言った。
 この時の阪急を支えたのは西本が育てた人材であった。彼は阪急に多くの置き土産を残していったのだ。
 普通名将が去ればチームは弱体化する。だが彼はチームを強いままで残していった。それが出来たのは彼が多くの選手達を育てたからだった。
 彼は近鉄の監督になった。近鉄のフロントが迎えたとも彼自身が売り込んだとも言われている。彼は就任してすぐに選手達に対して言った。
「御前等のことはよう知っとる。だから来たんやからな」
 彼はまずこう言った。
「そしてあいつはおるか」
 彼はグラウンドで一人の男を探した。
「おお、ここにおったか」
 彼はその男を見つけて思わず笑みを浮かべた。
「ええセンスしとるわ」
 その男はただ黙々と打撃練習をしていた。そしてボールをライナーでスタンドに放り込んでいた。
 彼の名を羽田耕一という。大柄でまるでプロレスラーの様な体格をしている。見るからに喧嘩が強そうだ。
 だが彼はその外見に似合わずあまり気が強くなかった。ある時大阪の街を歩いていてカツアゲに遭った。
 そして彼は何をしたか。普通彼のような外見の男なら殴り飛ばすだろう。しかし彼は大人しく金を出したのである。しかも後で気付いたがそれはかっての同級生だったのだ。
 捨てられている犬や猫をよく拾った。そして引っ込み思案で前に出て来るような男ではなかった。
「前に出て来い」
 ある時西本は選手達の前で羽田を呼んだ。そしてバットを振らせた。
「ええスイングやろ」
 そして選手達に言った。彼は羽田のスイングをいたく気に入っていたのだ。そしてそれを範とするよう皆に対して言ったのだ。それ程期待をかけていたのである。

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