第十一章 追憶の二重奏
第二話 家族
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は静かに首を縦に動かす。
公爵たちの顔が僅かに歪む。無断で国境を超えることに対する罰が、どれだけのものになるかは未だ不明であるが、普通に考えればそれは軽いものではない。だからこそ、多少? 無茶であれ、カリーヌがあれ程の無茶をしたのだから。硬い表情で公爵たちがアンリエッタを見つめる中、アンリエッタは足元に置いていた大きな革鞄を開けると、黒いマントを取り出した。アンリエッタがそれの端を握って立ち上がると、公爵の目の前にマントが翻りながら広がる。マントが広がりながら翻った瞬間、その紫色の裏地に記された百合紋に気づいた公爵の目と口が大きく開かれた。
「そ、それは王家の紋ではありませんかっ! っ、陛下、一体これは……」
マントを持ったアンリエッタは、見開かれた公爵の目をしっかりと見返した後、ルイズに向かって歩き出した。
慌てて立ち上がるルイズの前で立ち止まるアンリエッタ。
「ルイズ。これがあなたが無断で国境を超えた事に対する罰です」
「ひ、姫さま」
「これを着用すれば、あなたはわたくしの姉妹となります。それはつまり、王位継承権の第二位となることを意味します」
「そっ、そんなものを―――」
「手にっ―――取りなさい」
拒否の声を上げようとしたルイズを遮るように、鋭く声を上げたアンリエッタは手に持ったマントをルイズに差し出す。
ルイズの視線がふらふらと彷徨う。父に、母に、姉の間で彷徨った視線は最終的には士郎で止まることになった。不安に揺れるルイズの瞳を向けられた士郎は、受け止めるように笑みを浮かべると小さく頷いた。それを見たルイズは、何処か安心したように口元に小さな笑を浮かべると、アンリエッタに向き直った。
「……謹んで、受け取らせてもらいます」
ルイズと士郎の姿を見つめるアンリエッタの瞳に羨まし気な色と……嫉妬の色を帯びる。それは、ルイズが向き直ると直ぐに掻き消え、誰もそのことには気づくことはなかった。
否……。
「…………」
一人だけ気づいていた者がいた。
「ルイズ。これは罰です」
ルイズを前にしたアンリエッタは、ルイズが手に持ったマントを見つめながら、静かに語り始める。
「『虚無』という力は、余りにも強大です。そして力には、相応の責任と義務が付いてくるものです。特にあなたは公爵家の娘として、その責任と義務は強いものになるでしょう。……あなたが持つそれは、それほどのものなのです」
アンリエッタの手が伸ばされ、指先がマントの生地を撫でる。
「これは、それを二度と忘れないようにするためのものです」
マントに触れるアンリエッタに対し、公爵が口を開く。
「陛下。娘に対する寛大なご処置と過大な厚遇に感謝いたします。対する報いが考えつかぬほど……ですが、
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