裏の糸は知らぬ間に
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昼寝しなきゃ」
にこにこ笑顔でぴゃーっと駆けて行く七乃は知らない。
覇王は既に先手を打っており、ここに集められた情報には上がっていない密会が行われている事を。
†
そこは小さな古ぼけた店だった。
客はたったの二人。どちらもが眼鏡を掛けており、奥に光る研ぎ澄まされた眼光は鋭く、両者共に相手の瞳を冷たく射抜いていた。
「へいお待ち、青椒肉絲二人前」
店主の小気味良い声と共に運ばれてきた料理に目を光らせたのは褐色の肌をした麗人。孫呉の頭脳、周公瑾――――真名を冥琳、その人である。
「そう緊張してくれるな客人。ここの店のこれは絶品なのだ。ぜひ気を休めて食べてみて欲しい」
ふっと息を漏らして微笑み、対面に座る凛とした少女に料理を勧める。ただし、冥琳の目は少女を見極めようと推し量り続けていた。
対して、凛とした少女はクイと眼鏡を上げてから目線を外し、目の前に置かれた品をじっくりと観察して、
「この青椒肉絲……なるほど……おいしそうですね」
言いながらも箸を手にする様子は無い。
少女の名は郭奉孝――――真名を稟。曹操軍に所属する軍師である。
今回、稟は主である華琳の命を受けて孫策軍の駐屯地付近の街に来ていた。軍に所属して直ぐの行動であった為、袁家にも顔は割れておらず、疑われる可能性はまず無い。そして彼女は護衛も着けていない。一人の知り合いがこの地に視察に行く、そのついでの馬車に乗ってきただけ。
そんな彼女達二人に出された目の前の料理は、通常のモノでは無く少し異常な品であった。
肉とタケノコが多く、ピーマンと赤パプリカが少ない。さらには肉は豚肉であり漬けダレからなのか黄色っぽく仕上げてあった。色合いに黄色が多いその料理は見た目上バランスが悪く、とある高級料理店の店長ならばこのようなモノは絶対に出さない。
それを見ておいしそう、とはよほどの肉好きか、タケノコ好きしか言わないだろう。
稟の返答を聞き、箸を手に付けない様子を見て冥琳は笑みを深め、少しだけ歓喜の色が瞳に浮かぶ。
彼女が無類の肉好き女で、同志を得たと嬉しくなった……わけでは無い。
このやり取りは冥琳がわざわざ稟の軍師としての手腕を見る為に準備した戯れ。それを間違わずに見抜き、強気な態度ではあるが対等の条件で交渉をしたいとしっかりと示してきたから冥琳は歓喜した。
軍師とは、敵にこそ理解者がいるのが大抵である。策の有用性を真に理解できるのは、皮肉な事にそれを打ち破る敵の軍師なのだから。
青椒肉絲は今回の交渉に於ける本題を予想して冥琳が店主に作らせたモノ。色合いは緑、紅、黄色二つ。これが意味する所はなんであるか。
そう、緑は劉備軍、紅は孫策軍、黄色二つは袁家を表している。白銀の袁術軍の鎧は薄い黄
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