W バースデイ・アゲイン (5)
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間に合った。
矢は以津真天を阻止した。麻衣は無事だ。無事なんだ!
うかつだった。日高はグリフィスの男児以外は殺さない。さらに、日高は一度無関係の人間を殺めてその制約を強化した。だから麻衣にも手を出せないと踏んだが。
忘れてた、奴は傷つけるだけならためらわない性根の腐った女だった!
「ナル!」
「式符を持って陣を出ろ!」
祭壇から離れさえすれば契約不履行、日高最大の式王子は無力化される。
麻衣は骨を詰めたパーカーを持って足を踏み出した。そう、そのままこちらまで――土蜘蛛!? く、こんな時に。麻衣を阻むように現れた土蜘蛛の編隊。
水晶プルパを出す。蜘蛛が出てきているのは、居間の真ん中に開いた穴。そこに水晶プルパを投げ込む。
一瞬の光の炸裂、それで居間の土蜘蛛は全て紙に戻った。
麻衣の背後で、日高が薙刀を振り被る。させるか!
日高の手に矢を射る。薙刀を日高の手から弾き飛ばした。
「ナル!」
「よくやった、麻衣」
やっと僕の下に来た麻衣は、勢い余って僕の胸に飛び込む形になったので、片腕で抱き留めた。
「ナル、その腕…!」
「大した傷じゃない」
まだ言い募ろうとする麻衣を背後に押しやる。
「これで終わりだ、安部日高」
視線で殺さんばかりにこっちを睨む日高を、僕もまっすぐ見据えた。
「以津真天の式括りの維持には、供養されない亡骸が不可欠」
日高が、さっきまで忠実な下僕だった妖怪から、後退る。
「日本の諺だったな。人を呪わば穴二つ」
提供される媒介がなくなった以津真天は標的を変える。今度こそ、その名の通り、いつまでも亡骸を冒涜していた者に牙を剥く。
日高は何かの印を組もうとした。僕が許すと思うか?
矢を弓に番え、放ち、日高の両手を壁に縫いつけた。肉の裂ける音がして、日高の手の平を血の滝が流れて着物を赤く染めてゆく。
血がトラウマだと僕自身が言ったのに、僕は今、悦んでいる。
矢を抜けず身動きの取れない日高に、以津真天が迫る光景が、笑い出しそうなくらい愉快でしょうがない。
「遺言があるなら聞くが」
日高は肩を震わせている。甲高い哄笑が上がった。
「ふふ、ふっ、あははははは! はーっはははははは! は、は……ふふ……残念だわ。あと少しで憎きサムエル・グリフィスの血筋を根絶やしにできたのに」
サムエル・グリフィス。僕らの因縁の始まりとなった人。僕の――曾祖父。
「僕の憎しみはお前の執着を上回ったらしいな」
「こうなったということは、そうなのでしょうね」
日高は笑う。僕も嗤う。何てトチ狂った光景だ。
「お言葉に甘えて言わせていただくわ。わたくしと貴方は同じ。お互い
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