暁 〜小説投稿サイト〜
皇太子殿下はご機嫌ななめ
第49話 「男子誕生」
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
す」

 医師の緊張した返答が、わたくしの下まで聞こえてきます。

「頼むぞ」
「ぎょ、御意」
「最悪の事態に陥った際は、こどもよりも母体を優先せよ。いいな」
「よ、宜しいのですか?」
「ああ、構わん。無理すれば二人とも亡くなる事さえある。どちらを優先させるかといえば、母体の方だ。それを忘れるな」
「はっ、御意」

 皇太子殿下はモニターを切ると、こちらを振り返り、右手を上げられました。
 そして、

「アレクシアには、頑張れとだけ、伝えてくれ」

 と申されました。
 わたくしが一礼をして顔を上げたときには、すでに背を向けておられ、アンネローゼさんやエリザベートさん。リヒテンラーデ候などに指示を飛ばしておりました。
 ご自分の事よりも、帝国の方を優先される。
 いま出征している艦隊は八個。帝国兵士は数百万、いえ一千万人を超える数。。
 それだけの人間の命運を動かす立場とは、これほどまでに厳しいものなのですね。できればマクシミリアンに、この様なことは背負わしたくないものです。
 甘いといわれようともつくづくそう思います。

 ■宰相府 リヒテンラーデ候クラウス■

「イゼルローンと回線をつなげ」
「リッテンハイム候爵。記者連中を宰相府に呼び寄せろ。緊急会見を開く」

 皇太子殿下が、矢継ぎ早に指示を飛ばしておられる。
 同盟の作戦を聞いたときとは大違いじゃ。
 報告を受けた皇太子殿下はすぐさま、宇宙艦隊司令部や軍務省などに連絡を取られた。
 すでに頭の中では次の展開を睨んでおられる。指示の一つ一つに迷いがない。部屋の片隅で、マルガレータと共に、同盟との交渉のための草案を練っていたブラウンシュヴァイク公も、気になるのかこちらにちらちらと視線を投げかけている。

「イゼルローンと通信が繋がりました」

 寵姫の一人が声を上げる。
 皇太子殿下は大画面の前に立たれると、要塞駐留艦隊司令官のヴァルテンベルク大将と要塞司令官のクライスト大将の両名が、まるで猫の子を借りてきたように二人揃って大人しく、モニターの前に立っていた。
 皇太子殿下とはかなり年が離れている。親子ほど違うといっても良いだろう。それが緊張した面持ちを隠そうともせずに、命令を直立不動で待っているのだ。
 相手が皇太子殿下でなければ、情けないと揶揄されるかもしれんが……。
 今この二人を小ばかにできる者はいないだろう。

「今回の作戦は中止、戦闘は回避された。委細は送った文書を読め。以上だ」

 二人は異口同音に御意と返事を返し、敬礼をした。
 緊張にガチガチに強張っていた姿勢が緩む。皇太子殿下はそれを見越したように、迎撃艦隊の兵達を労ってやれと告げる。
 それだけだ。それだけで通信が途切れた。
 今頃向こうでは
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ