V マザー・フィギュア (5)
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はその期待に応えられない。
僕は麻衣の口を手で覆った。麻衣はまぶたを開け、明らかに不満という顔で僕を見上げる。
「縁起が悪い」
麻衣の眉根がもっと寄る。そうじゃなくて。
「知ってるか? 決戦前夜に異性と寝ると高確率で死ぬらしいぞ」
麻衣は真っ赤になって僕の腕から逃げた。「ナル」との関係が行きつくところまで行きついているくせに、妙に初心だ。
「だ、誰もそこまでなんて言ってない! ……けど」
「けど?」
「……何もしないで一緒に寝るのも、だめ?」
……………………………まあそれくらいなら大丈夫か。
「分かった」
あからさまに表情を明るくする麻衣。本当にくるくる表情が変わる女性だ。
「お風呂入れてくる! 待ってて!」
麻衣はパタパタとバスルームへと駆けていった。
僕はベランダに出る。このタイミングならあの魔女が現れてもよさそうだが――何故か麻衣が戻るまで何事も起きなかった。
――“決めた”ならあとは自分の足で進めってことか。
「ナル〜。冷えちゃうよ」
「ああ」
煌びやかな東京の夜景に背を向けて、部屋の中へ戻った。
…………
……
…
それからはお湯が溜まるまで麻衣と他愛ない話に興じた。麻衣が話すのはSPRのイレギュラーズのこと。「ぼーさん」「ジョン」「綾子」「真砂子」「リンさん」、そして「ナル」と「ジーン」。――本当に家族みたいに思ってたんだと伝わった。
二人とも入浴が終わってから、狭いベッドで並んで横になる。
「おやすみなさい」
「――おやすみ」
すぐ目と鼻の先に麻衣の顔がある。息遣いを感じる。それがこんなにも、温かい。
目を閉じる。
予感があった。
きっとこれが二人で過ごす最初で最後の夜だと。
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