V マザー・フィギュア (5)
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、なかなかの忠犬属性ですね、谷山さん。ああ、「僕」が相手なのだから、これは良妻属性とでも言うべきかな。
部屋に戻ってから。僕は彼女に言うべきことがあるから、玄関を閉めると同時に言った。
「明日。日高を討ちに行く」
麻衣は目を見開いて僕を見返した。けれども、今までのように頭ごなしに否定することはなかった。ただ、怯えた小動物みたいな立ち姿で。
僕も部屋に上がり、麻衣を追い抜いてリビングとの境に立った。
「麻衣は好きにしてくれていい。ここを生活拠点にしたいなら自由に使ってくれ。ここを出て行って元の世界に戻る方法を探しても構わない」
「……本気、なんだね」
「ああ。僕はもう引き返さない」
麻衣はしばらく俯いていた。答えを出していたんだろう。
やがて麻衣は決然と顔を上げ――僕のほうへと歩いてきて、僕の正面から僕をまっすぐ見上げて来た。
「ナルは――あなたは強いよ。それは一緒に過ごしてきてちょっとだけど分かってる。でも、だからこそ、あたしの常識外に強いあなたと、もっと常識が通じない日高って女がぶつかったら、あなたは二度と戻ってこない気がする」
あなた、と呼ばれて、それがひどく心に浸透する。
滑稽だ。ああ、どこまで滑稽なんだ、僕って奴は。
僕はとっくの昔に麻衣にほだされてたんだ。
日高は憎い、許せない。日高を殺したい。自分で命を自由にする当たり前の僕としての権利を取り戻したい。全て本心だ。今も消えてない。
その上で勝手に麻衣が付け加えてくれたんだ――生きたい、という思いを。
「だから一緒に行く。あなたが戻れなくなったら、あたしが連れ戻す。あたしがあなたを『こっち側』に繋ぐっ」
泣き出しそうな震えた声。今までの僕なら無視できた。でも今は無理だ。今の僕には麻衣を突き放せない。麻衣の言葉に希望を見出してしまった。
繋いでくれるのか?
僕を戻してくれるのか? 人の好意を、優しさを、心地よいと思えたまっとうな人間に。どこにでも起きるつまらない日常が幸せだと感じられた幸せな頃に。
――君が見た夢の中、死んでしまう僕の未来を変えてくれるのか?
もしそうなら、僕は、麻衣に縋りたい。
麻衣の腕をとってそのまま引く。細い体は抵抗なく僕の両腕の中に納まった。こんなに小さかったんだな。なのに僕を守ってくれたんだな。
「ナル?」
「誰かの体温を感じるのはひさしぶりだ」
「そうなの?」
「ああ、ずっと昔に喪った、いや、僕自身で拒んできた――」
密着していた体を少し離す。麻衣は僕を見上げ、一瞬だけ切なさを呈し、目を閉じて背伸びする。ああ、そういえば、「ナル」とはそういう関係で、この流れならそうするのが当然だよな。
悪いが僕に
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