女の子と狼の子
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「……別に」
何故かその大きな目を反らされた彼女はあちゃーと心の中で呟いた。
相手があまりにも美少年だったからと言うこともあるが、他人であろうとそうでなかろうとじいっと相手を観察してしまうのが悪い癖だと良く言われていたのを後になってから思い出すなんて今の自分から脱皮するのにはまだまだ道は険しそうだ。
第一印象を最悪にしてしまった、そのショックが強すぎてその後何を話したのかはあまり覚えてはいない。
ただ、あの一言を発してくれた以降、まだあどけなさの残るハスキーヴォイスが耳を掠めることは無かった。
「はーっ……やっちゃったな。…私ってどうしてこうなんだろ」
その日の夜、伝票の整理と戸締りを確認してから自室のベッドにぼふっと少し乱暴な音を立てて横になる。
室内には幼い頃のままぬいぐるみが二十匹以上所々に設置されており、まるでルヴァーナの帰りを待っていてくれているようでこの歳になってもずっと捨てられずにいる。
「……やっぱり、嫌われちゃったかな?今度会ったらちゃんと謝らなくちゃ…」
ベッドに横になって数分もしない内に瞼が重くなってくる。
今日もいろいろあった、洋菓子屋の娘に産まれた所為か、早寝早起きが何となく癖になってしまっている。
大体の仕込みは夕食後に済ませておいた。
アズウェルは地下室に行って来ると言ってたなと思い出しながら眠りに落ちていった。
残された部屋には赤々と灯った蝋燭が困り果てて透明な涙を次から次へと零してゆく。
彼女が寝息を立て始めた頃、ドアが静かに開けられた。
それを確認するとやれやれと言った調子でルヴァーナの聖域に踏み込んできた侵入者は微笑んだ。
蝋で溢れるそれを見兼ねて長身の体を折り曲げて、その艶かしい唇でそっと吹き消す。
ようやく己も眠りに就けると安心した火は白い煙となり、暗闇の部屋の中に溶けていった。
ベッドの傍にある厚いカーテンで覆われた窓の外には美しい満月が地上を冷たい光で照らしている。
小さな体を温かい布団の中に寝かすと暫しの間影は一つになり、そして進入してきた時と同じく静かにドアを開けて廊下の方へと消えて行った。
願わくは覚めない夢を愛しい君へ…。
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