女の子と狼の子
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「ちょうどいいわ。ウチの旦那の末の弟でコンラッドって言うの。普段は森の中の小屋に住んでいるんだけど、私がこんなお腹でしょ?だから、この間から家に来て貰ってるのよ」
仲良くしてやってねと、一向に不機嫌そうに突っ立ったままの彼の頭を圧して下ろさせる姿はさながら歳の離れた弟を持つ姉のようだ。
ミレイザは猟師を生業としている家の娘だが昔から血生臭いものが大嫌いで、小さい頃は良くあんな家なんて出たいと、言っていたのを良く覚えている。
彼女を含め子供は七人いるがそのどれもが娘で、一向に跡継ぎが産まれない事で家庭は崩壊状態だったが長女であるミレイザが腕利きの猟師と結婚したことで少しずつ治まりつつある。
当時はあんなに嫌っていた彼女がそれで生きている男と結婚することが小さな村には一日足らずで広まり、翌日には誰もがその話しで盛り上がっていた。
家庭が家庭なだけ外見も精神面も大人びいているが年齢はまだまだ遊びたい盛りの十六歳だ、式を挙げる前にこっそり聞いてみた事があった。
「だって、可愛いんですもの。年上なのに全然偉ぶらないし、私のことを「ミレイザさん」って呼ぶし、自分のことを「僕」って言うのよ。猟師の癖に無闇に殺すのは嫌だとか熊とか自分より大きい獲物を殺すくせに虫が死ぬほど嫌いとか……ともかく、私はそんな彼の弱さを知ってしまったのよ」
ぽおっと頬に差した赤は普段大人びた彼女を一瞬で変えた。
これまでのミレイザを知っているだけに幸せになってほしい、それは式から何ヶ月経った今でも変わらない願いだ。
カウンター内から出て、お得意なポーカーフェイスを崩さない兄の隣に立ってみる。
仕事中のためヒールの高い靴を履いてはいないが身長は自分くらいのように思えた。
少し青みがかった黒髪は彼とは違い、肩までで切り揃えられてある。
幼くてもやはりと言うべきか、目つきは鋭いがそれを気にしなければ結構な顔立ちだ、娘たちが放って置くわけがない。
露骨に凝視してしまったためか何が無しに気づいたのか、何かに弾かれたように向けられた瞳には年若いコンラッドには不相応な鋭さがあった。
咄嗟に思わずアズウェルの後ろに隠れてしまう動作は二人にある記憶を思い起こさせ、ある者は少年の頭を小突き、またある者は幼子をあやすかのように優しくルヴァーナの頭を撫でるその視線は慈愛に満ちていた。
「これっ!アンタはタダでさえ目つきがキツいんだから少しは自重しなさいよ。ごめんなさいね、ウチの旦那とは違って無愛想で」
「ううん…、私こそじろじろ見ちゃってごめんなさい。えっ…と、コンラッド君……だけ?気分悪かったよね。本当にごめんなさい」
恐る恐ると言った調子で自分と同じ身長の少年を再度見る
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