女の子と狼の子
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いつまでアズウェルは自身のことを『兄』と呼ばせてくれるのだろうか。
早くに両親を亡くした自分に残されたのは、先祖代々営んできたお菓子屋兼自宅だけだった。
小さい頃からよく店の手伝いをしていたのでレシピは何となく体に染み付いていたが、しばらくボーっと過ごしていたある日、村の近くにある森の中の花畑で一人の少年が泣いていたのだ。
『どうして泣いているの?』
声を掛けるのに躊躇いはなかった。
一瞬びくっと強張ったが、恐る恐る顔を上げた彼にドキリとした。
涙をいっぱいにしてこちらを見る少年は、今のルヴァーナと同じくこれからどうすればいいのか不安で支配されていた。
同い年か、二つ三つ上くらいの彼は村の誰とも違う何かを纏っているような気がした。
『この森にはもう僕一人だけになっちゃたんだ』
『じゃあ、私と一緒に来ませんか?そうしたらもう寂しくないよ』
『いいの?』
『はい』
………………今思い出しても自分はなんて大胆なことをしてしまったのだろうと後悔している。
(あれではまるでプロポーズでしょ!)
妹が初めて出会った時のことを思い出しているなんて微塵も気づいていないであろうアズウェルは器用にオーダーの商品を別々に包み、紙袋を大事そうに片腕に抱くと呼び鈴のついた店のドアを開けてこちらに振り向いた。
「送っていくよ。大事な体だからね、小さな荷物でもどこでどうなるか解らないし」
ドアを開けたことにより、夕暮れで更に冴え冴えとした風が青年の黒髪と亜麻色の緩くウェーブの掛かった少女の髪が靡いた。
その様は一枚の絵画のようで、見ているこちらは何故だがいつも置いていかれた気分になる。
いつか二人に並んでみたいなんて夢を見る歳はとっくに過ぎているし、端から張り合おうとは思ってはいない。
それなのに寂しいなんて、自分はいつになったら甘えた気分が抜けるのだろうと、こんな時まざまざと思い知らされる。
不意に顔を上げるとアズウェルと目が合い、ドキリとして思わず顔が熱くなる。
いけないと解っていながらも、その視線からは逃れられずに余計に心拍数が上がり、堪らず俯いてしまうのが習慣になってしまっていった。
彼はどう受け取ったのかくすりと笑い、ミレイザは年頃の少女らしくニヤニヤと笑っているのを当の本人はまたバカにしてと、しか考えが回らないでいる。
「あら、ありがとう。でも、今日はいいわ。ちょうどいい荷物持ちがいるの」
入ってと、軽やかに言う彼女とは違い、随分と気だるそうな少年がアズウェルの横を素通りしてその隣に立ち止まる。
「義姉さん、遅すぎ」
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