女の子と狼の子
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妬の炎が燃え滾っていることを知らないのは、この村では口角を上げて笑う彼しかいないだろう。
店の紙袋を大事そうに両腕で抱く彼女たちを見ていると憎らしくもあり、また嬉しくもある何とも複雑な気持ちが綯い交ぜとなって、目の前の自分とは違う癖の無いまっすぐな美しい髪に向かっていた。
「……こほんっ。そろそろ私がいることに気づいてくれない?」
「ミレイザっ!?」
聞き覚えのある声がする方を見ると、カウンターの直ぐ横で呆れた様子でこちらを見ているお腹の大きい女性が一人いた。
「やっと気づいてくれた?」
「もうっ!言ってくれればいいのにっ」
「あら、言ってもいいのかしら?」
「っ!?……いじわるっ」
頬を膨らませると彼女はふふっと、いかにも貴婦人のように笑う。
「それで今日は何をお求めでしょうか、マダム?」
「ふふっ……そうね。では、いつものとこちらの秋季限定のモンブランロールを頂こうかしら」
「かしこまりました……って太るよ?」
「まっ、失礼ね。いいのよ、妊娠中はここのお菓子しか食べないことにしているし医者に「もっと栄養を摂りなさい」って言われてるし。それに元々太りにくい体質ですもの。このくらいなんてことは無いわ」
「はいはい、解りましたよ。ラムレーズンクリームとモンブランロールね」
常連客のみしか知られていないカウンターの奥の棚には何種類ものジャムやクリームがある。
ミレイザとは両親の生前からの付き合いで、その頃から何かと気に掛けてくれる。
しっかり者の彼女と泣き虫の自分は傍から見れば仲の良い姉妹のようだと、言われているのが当時は嫌だった
だが、今はそれさえも良い思い出だと受け止められる。
木製の台をギシギシ言わせて手を伸ばすその先に、きれいな指が目的の小瓶を掴み持って行ってしまう。
こんな鮮やかなことをやるのは一人しかいない。
「お兄ちゃんっ!」
「危ない!」
勢いよく振り返ろうとして足元の台がそれに追いついて行けず、バランスを崩したそれはミレイザが短く叫ぶ前に一度バウンドしてから床に力無げに倒れた。
「まったく……いつも僕に頼って欲しいって言ってるだろ。ルヴァーナ」
耳元を掠める声は笑っているように聞こえる。
恐る恐る顔を上げると、こちらを心配そうに見下ろしている黒い瞳と目が合った。
カウンターに振り向いた状態でバランスを崩した彼女を半ば、抱き上げるように腰に片腕を回している仕草には全くいやらしさを覚えない。
「ごめんなさい…」
解れば宜しいと、満足げに微笑み、そっと床に下ろしてくれた
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