女の子と狼の子
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昔々、あるところに一匹の狼の子供が泣いてました。
「どうして泣いているの?」
女の子は尋ねました。
すると、耳をぴくりとさせ、狼の子供はこちらに恐る恐ると言った調子で振り返ります。
振り返った顔はおぞましく、今にも突き出した口を開けその鋭い牙で噛みつかれそうでしたがその目は真っ赤で、涙をいくつもいくつも流していました。
「この森では狼はもう僕ひとりだけ。でも、みんな……みんな、僕のことをいじめるんだ。みんな、僕なんて嫌いなんだ」
「そんなことはないよ」
女の子は震える狼の子供の頭を撫でてやりました。
女の子は知らなかったのです。
狼と言う生き物の恐ろしさを、ずる賢さを。
けれど、心の優しい女の子はたとえ知っていたとしても声を掛けていたでしょう。
なぜなら、女の子もこの広い世界にただひとりだったのですから。
「ねえ、狼さん。それなら私のおうちに来ませんか?そうすればもう寂しくないよ」
「いいの?」
「はい」
こうして狼さんと女の子はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
秋色も次第に濃くなり、あと何日かでクリスマスキャロルが聞こえてくる十一月下旬、昨日の明け方から群を率いた雨雲が夕暮れの空をグレーに染めていた。
明日は朝から晴れるだろうか、そんな期待を自宅兼洋菓子店を営むルヴァーナは洗濯物を畳みながら微笑んでいた。
秋は日に日に成りを潜め、気がついた頃には虫の声はどこかへ消え失せていた。
ハンガーに掛けたままの男物の白いYシャツの乾き具合を確かめようと手を伸ばせば、微かに残る陽の温かさと仄かな香りが小さな胸をいっぱいにさせる。
「あっ、こんなことをしてる場合じゃなかったんだっけ」
そう言うが早いか、残ったタオルを畳むと戸締りを確認し、忙しなくリビングからカウンターに顔を出してはみるが、目の前に広がる世界は洗濯物を取り込みに行く前と何ら変わらず……いや、余計華やいでいた。
「アズウェル様。私、クッキーを焼いてきたのですが……よろしければ」
「ありがとう、後で食べさせてもらうよ」
小さな紙袋を受け取ると、鼻を近づけ目を細める。
その様はさながら一輪の名の知らない花の香りを楽しんでいるようで、その場にいる一同が胸をときめかすが、当の本人は全くそれに気づいていない様子で上品に微笑む。
「これは…シナモンだね」
「はっはい!妹さんには敵いませんが、以前お好きだと伺ったものですから」
「僕が言ったそんな些細なことを覚えていてくれるなんて……嬉しいよ」
黄色い歓声とその裏で早くも嫉
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