暁 〜小説投稿サイト〜
水深1.73m 背伸び 遠浅
水深1.73メートル 背伸び 遠浅
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行の父の耳を遠ざける情けだった。
吉行は僕に一つのカメラを差し出して見せた。
「OM。オリンパスの」
 それは僕らの年齢でも手に馴染む大きさで、シンプルな佇まいは黒とシルバーの比率のバランスがよく、レンズとボディーの連結部を握るとしっくり手に馴染んだ。かつて僕は吉行の家で初めて一眼レフカメラを触った。大きなレンズをのぞくと、そこにはコーティングに染められた光の影が幾重にも重なる。美しくて僕はすぐその大きなレンズの虜になった。このOLYMPUS OM1≠フレンズはその胴に目いっぱいまで大きく、その美的な存在自体が「傷を付けられる」事を拒んでいる。
「このレンズの端っこなんて書いてある?」僕が聞く。
「ズイコー 100mm」吉行は何のてらいもなく答えた。
「良く撮れる・・・の?」
「学際使ったらいいし。ためしやん。今年バンドめっちゃ派手らしいで。照明がいいらしい、何か音声も新しいの入れたらしい」
 僕は「学際」という言葉に少し戸惑う。僕らの年頃で文科系であることはタブーだ。特にカメラなんてイヤラシイ物を写す道具なんだし。
 僕らが出会った頃に吉行はすでにカメラマンだった。吉行は十歳の時から兄のお下がりの「ニコン」を手にマニュアルで写真を撮り貯め、そのアルバムは人物を被写体としたもので埋まっていた。気取った大人の女性から、気の抜けたおじいさんまで、あらゆる年代を切り取っていた。吉行はそれを「コレクション魂」と笑って説明してくれた。一から一〇〇まで集めたいんだと笑って言う。そして僕は吉行に少しの距離を感じた。人と面と向かうというのは、派手なシャツを平気で着ることくらい、とても難しい事なんだ。
それから僕らは親友になった。そう、無二の親友って奴だ。


   3

 男女平等に日焼けをした九月の初めに休みが明ける。小麦色に統一された生徒達は、それぞれに匿名性を得る。同じ色である事に落ち着いてそこかしこに笑顔がもれている。
クラスでは月末の学校祭に向けて本格的に準備が始まる。運の悪い生徒達が責任を負い、運の良い生徒達が自由に遊びまわる。徐々に棲み分けが進み「輝ける人たち」と「輝くのをためらう人たち」に分かれる。これからのティーンエイジをどう生きていくかが決まり始める。
全てのクラスは合唱団を結び、巨大なポスターを描く事になる。クラスにはそれぞれ最上級生の優等生が指導しに来て恋なんかが始まる。毎年、三年生はバンドを組み、歌をうたい、そして恋が始まる。一、二年には許されない。後輩が先輩の前で目立つことなんて許されてはいないし、学年を飛び越え、ましてや恋なんて。下級生の恋は女の子にしか認められてはいない。生徒それぞれが学校近辺の商店街の店主と模擬店を出す。そしてやはり恋が始まる。
「まぁ田舎町だからさ」
僕は合唱の練習を抜けて一人家に向
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