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カナリア三浪
カナリア三浪
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「ドラム、馬鹿だからね。ベース、人当たりがいいよ。ギター、無干渉だね」
「あの詩は書けねぇって、言ってましたよ」
「俺の?」
「人が触れたがらないこと書いてるからって」
 しばらく黙っていた。俺の詩をほめる奴、誰だ。俺たちは一緒にいた時はお互いをほめあうことはなかった。けなすこともなかった。俺たちの上には大きな太陽があった。それが『宝くじにはどうせ恵まれないよ』という様な諦めと、でも目の前の階段を昇ったらどこかにたどり着ける、そんな大いなるロマンを与えてくれていたから。
「それで話なんですけど」彼は鞄の中から紙を出して言う。「この詩をですね、歌にしてもらいたいんですよね」
「あいつら、俺の存在が入ってくるの嫌がるだろう?」
「それは、僕が押しますから」
 俺はじっと、プリントアウトされた紙を見ていた。実は俺の中に、彼らから「嫌われる」という実感が無かった。俺は傲慢なのか? あいつらより上にいるのか? いや、ツボが少しずれているからだな。あいつらの嫌悪は俺を通り越し、遠い国の塩の湖に触れる。そして俺の立場をしょっぱいと感じるだろう。

 この世には時代の流れってのがあるだろう? あの二十一世紀の始まりを燃やしたのは誰なんだよっー! ドラムを殴った後、最後のライブでそう叫んだ。あの女は、その時代を燃やしたエネルギーの賜物だと思ったんだ。
俺がこの声で女落としたのがそんなに気に食わないか、と言って殴った。みんな、あの女に惚れていると思っちまった。それは小さな自己弁護。俺はステージに立っているとき、心が空っぽになっていることに気づき始めていた。その空っぽの隙間に、少女が降りてきたんだ。見たこともない半透明の少女。俺はその少女の内側をのぞくことになった。その少女はひどく照れ屋で、俺を引きずり込んで耐え難い羞恥心を植えつけた。それは強くはなかったけれど、ひどく効いた。ステージの途中で笑いが止まらなくなり、にやけた顔でぶち壊しになることもあった。がっかりしたのは誰よりもこの俺だったから、二度とあいつらと会えやしない。
 帰りのタクシーの中でベースのコウちゃんに電話しようとした。「新しいボーカルの子いいね」と。彼なら今でも電話できる。薄い闇の中で渡された詩を読んでいる。

 あらゆる人間
 生まれたからには
 魂にある真実がありまして
 それはきらめくような輝きをもって
 人を一時 惹き付けるのです
 それがいわゆる結ばれるということでは
 ないでしょうか

 いざ結ばれたらば
 その人間の灰汁を
 愛すべき味として
 受け入れなければ
 いけないのです

 あなたの優しさと呼ばれる
 柔らかいところで

それは霧のように世界を包み
 俗にまみれた景色を
 密かに未来につなぐのです

 しかしながら私
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