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カナリア三浪
カナリア三浪
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。今ここに無いものを求めるから経済は活発に回るのではないか。いつでも手に入るものなら、前頭葉が萎えちまう。一冬ウニから離れても、ウニを忘れる奴はいないだろう。でも、この冬のウニ、美味だね。意識の端っこでウニ問屋が俺を見つめて微笑んでいる。この寒い夜にノーセックス。いっぱいいるだろうな。腹の奥がアツい。彼女は地味な女だけれど、抱きしめるとスポンジみたいに色気が染み出す。この前抱いた記憶は、まだ溶け残っているようだ。
ああ、彼女が大事な日を一緒に過ごさないのは、自分が絶対的な存在になっちまって、馴れ合いになるのが嫌なんだな。いつもピンとしたシャツみたいに、シャキッとしていたいんだな。オーナーの連れている女のゆるみ方を見てそう思った。アレした後に体を洗わないのは俺も趣味じゃない。彼女は体を洗うのに少し時間がかかるだけだ。

 幸せにあこがれているけど
 そのあこがれの
 すがたかたちが
 うまく見えないのです

 詩的な返事を打って、休憩が終わった。でくのぼうが部屋に入ってきた。
「氷割っといてくれ」と頼むと。
「いいッスよ」と軽く返事した。
軽い返事と軽い脳みそ。俺の胸は穏やかになる。「幸せの姿、形が見えないのです」か。彼女、いい具合に痛むだろうか?

「さっきの女の人、タイプなんですか?」と訊く俺に、「いやぁ、俺の恋心なんてさ」と笑うテツさんの頬に幾筋かのしわがよっている。顎を引きながら酒を作るテツさんは、何度も叩かれたイジメられっ子みたいに見える。俺にその女の事を聞いてくるのだ。オナニーが我慢できない中学生みたいに女の胸の谷間が忘れられないのだろう。良くあることだ。

 当たり前のジントニックを
 彼女が口をつけて飲んだら
 それは別の飲み物に変わった
 素敵な魔法をかけるのは
 僕の方だったのに

「これ、良い詩だろ?」テツさんが詠った。
「いいですね」
 テツさんが酒を注ぐ音が色気を増した店内で小さく響く。酒の瓶は何故こんな良い音を鳴らすのだろう。息を吐きながら喉でゆっくり震わす。酒瓶とシンクロ。店はアルコールで程よく染まり、たまに破裂する笑い声のほかは、柔らかい和音で満たされている。
「夢があるから希望が持てる、頑張れる。それだけじゃないだろ?」おっちゃんが若いバーテンに食ってかかっている。「たいていの奴は金を求めて穴を掘る。上に行くには金が必要だって。お前の言うこともわかるよ。金の稼ぎ方だろ? でも、一見綺麗な金でも、社会に交われば必ず黒くなるんだぞ。遠く、遠くを見れば完璧に綺麗な金なんて存在しないんだから。綺麗な金ってのは、汚れを恐れる臆病者の話だ。何せ金って物には黒い人間のネバネバした欲が絡みついているから。人間の美しさだって金になるんだからしょうもない」若いバーテンはじっと聴いていた。眼差しの奥に
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