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カナリア三浪
カナリア三浪
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聴くのか。

 年越しそばを茹で上げる鍋から、もうもうと上がる湯気を見る。テレビでは空気が乾燥すると老けるから、加湿器を使おうと、マーケティングをしている。俺の歳ではピンとこない。まだ、体にはたっぷりの水があった。
俺は三浪もするバカだから、地球が渇いてゆくことの意味を知らない。それは、勝ち組と負け組みの差がどんどん開いてゆく事とどれ位違うのか。勝ち負けをなくしたら、サハラ砂漠に雨が降る。そんな気がする。
 俺は初体験を間近にしたとき、珍奇な考えにとり憑かれた。人間にとって思春期とは戦争である。現代の日本人にとって、第二次大戦とは親や世間との戦いである。それが終わるのが初体験だと思っていた。それを身長と絡めて考えた。俺の思春期はいつから始まったから、この頃には終わるはずだ。自分の現在の身長が歴史の一点を指していて、その成長の具合で、世界に刻まれた史実が、形を変え自分の身に問題を起こすと信じていた。人間は母親の胎内で進化の過程を経験するらしい。では何故生れ落ちたあと、歴史を経験しないのか? 疑問であった。思春期の不安定な心が、戦争を連想させた。閉じた世界でそう考えていたのである。自分の成長が終わったとき、俺は世界の『今』を生きることになるだろうと。身長が伸びているうちは過去だ。その過去の中にある第二次大戦が思春期なのだと。そんな風に、俺は世界と自分をつなげていた。今でもその考えをバカだと思えない。クスクスと笑えるのは、通りすぎたものの特権だと考える。
 そばつゆは、今日、お雑煮を作るから多めに。年はもう七時間前に越えている。カウンターの中で「ハッピーニューイヤー」と叫んであげた。客も叫んでいた。

 誰かが創った、時間の境界線をまたぎました。
 縄跳びみたいだね。
 あけおめ。

 女からメールが来ていた。

 神は意味ある人間に時を与える。
 時が惜しいと思えれば、意味を見出すことが出来る。
 あけおめ。
 サブロー

 ネギを刻んだそばを食べて、まだある胃袋の隙間に餅を詰めようと思う。受験勉強みたいに詰め込んで、落ち着きたい。レンジに餅を二つ入れ、練り物を出汁で温め、三つ葉を傷んでいないか観察して、外を見た。太陽はもう出ているようだった。
この部屋から山が見える。その山は小さいけれど、山の向こう側では雪が降り、こちら側では降っていない。昔の人は、山が何かから自分たちを守ってくれている、そう思ったかもしれない。それとも雪を降らす霊力を山が吸い込み、春に向かって命を蓄えているのだと信じるかも。過去にここで暮らした人々に恩恵をもたらしたこの山は、神と崇められるのだろうな。
 山が何かの恩恵をもたらし、神だと言えるのなら、この工業製品も神だろう。人間の意識が係わったら、その神度は下がるのだろうか? そう思った後、自分の意識で
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