カナリア三浪
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が心細くなるほど縮んでいる。
胸が痛い。嗚呼。
記憶。経験。それは濁りか? いや、研磨か。すべての経験、肉体を、お勉強を超えたらば、どこに行ける。どこかに行きたい。クリスマスソングの女。メールを送ってきやがった。
サブちゃん、チャクラかびてるぜ。
この女を口説けなかったのは、俺の体に廻る、魂の脈が負けていたからだな。「負けたくない」そういう意味もあったかも。彼女の方がきめ細かい魂の樹木を抱えていたんだ。自分自身に相手の心の機微を受け止める器量がなければいけない。男らしい繊細な夢である。過去の日に降りそそいだ劣等感。こつこつジャンプして別世界に行こうとした。それなりに魂が育った気がするから「負けたくない」。今、ジャンプして何に届くか分らない。もう、跳ぶ必要はないのか。昨日、抱いた女を思いだした。彼女のどこに雨が降っているのか? 分らない。実際、彼女は生きているのか? 交わりすぎてなんだか存在が希薄になってきた。しばらく欲を溜めよう。そう、それが国境の線を引くだろう。
「こう言っちゃ何だけどさ、サブちゃんのね、詩をさ、プロの手で売れ線にしたらウケるよって言われてるの」コウちゃんが電話をかけてきた。午前五時。店のみんなでの深夜の飲み会が終わった頃。コウちゃんは就職しないで深夜の警備員のバイトをしていて、その休憩中だった。仕事は七時までだそうだ。「クリスマスにステージ立ったでしょ? その時観てたらしいのね、それで回り回って俺らのところに話しきたわけ。どうして彼は抜けたのかとか、今までの曲作りはどんな分担でしてたかとか。そしたら人に会ってくれないかって言うわけ。その人がね、クリエイターとミュージシャンつなげる役割の人らしいんだ」
「俺、ボーカルの子から詩を預かってるぜ」
「それ、書き直すやつでしょ? 出来た? 出来たらすぐメール添付してよ。見せるから」
「チャンスなのか?」
「チャンスだよ」
何のわだかまりもなかった。コウちゃんのこだわりの無い性格のおかげだ。すんなり心が動いている。胸を可能性がくすぐる。そこから緊張感のある確か、が広がり、四肢に満ちてゆく。境目が見える。その向こうには豊かな匂いのする世界がある。未来がマーブル模様。指を動かすだけで、つむじ風が起こせそうだった。
「詩は九割出来てるよ」
「すぐ送ってよ。メルアド俺のでいいから」
信じてる。コウちゃんはそう言った。俺、自分のこと信じてる。でも、他人から信じられると、その矢印がどこを指しているのか分らなかった。カラスの鳴き声よりそれは遠い。『冷静と情熱の間』そんな映画を思い出した。部屋に帰り、すぐコウちゃんにメールを送った。
僕が踊っている間
あなた 何燃やしたの?×2
気高い生き物みたいに
愛し合っているうちに
あの人の顔が
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