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カナリア三浪
カナリア三浪
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もまた資源であるから。

 部屋に帰って、スーパーで買ってきた和牛ステーキ肉を焼いた。塩と胡椒を振った物を、ワサビで食べる。二切れ目が特に美味だった。手作りのおにぎりを二つ食べて、パックの野菜ジュースを飲む。
鉄製のフライパンを金タワシで洗い、空焼きする。端の方から水が踊りだす。水がだんだん小さくなる。「どんどん小さくなってゆくね。冬のペニスみたいだね。どんどんね」
ベッドに横たわり静かにまぶたを閉じている。俺の肉になれ。
 細い足首をつかんで、折りたたみ、そのはみ出たふくらはぎを愛撫して、すべての嫉妬に負けないようにペニスを硬くすることに集中する。もう濡れていたから、差し入れる。奥まで突き抜けて、興奮が体を満たすから、仰向けでも崩れない南国の知らない大きい木の実のような胸を鷲づかんだ。『勝った』と想った。前頭葉の隅から隅まで俺以外の誰でも無かった。そこに誰の疑念も入り込む余地は無かった。
記憶はすべてつながっている。そのはずなのに誰かがそれを偽物と入れ替えたり、色を塗り替えたりして台無しにしてしまう。その人を俺は最悪の創作家と呼ぶ。彼は記憶から意味をもぎ取り、無味乾燥なものにして、人から生きる気力を奪い取ってしまう。この女の記憶も例外なく塗り替えられているから、たまにその色を塗り直す。意識に残る素晴らしい思い出は、すべての起点であり、終点である。美しい物語りが汚されれば、立ち上がり、美しい結末まで歩みを進めなければならないんだ。例えその記憶を思い出さなくても。渇きとはそういう物だと思わない? 記憶が汚れると顔の筋肉が歪む。俺はクワっと力を込めて、悪い創作家を押しのける。

 夜の帳が下りるころ、地下鉄に乗ってすすきのに向かった。地下鉄の中には幸福と平坦な道がある。ある人は幸せを疑いもしない。またある人は頑なに歩くことを止めない。平坦な道。それはきれいな歌で飾られなければならない。何もジェットコースターみたいな恋を歌い上げる事だけが俺たちの仕事じゃないんだ。平凡な毎日に雨上がりの虹を架けるのもいいじゃないか。彼らの無意識に引っかかるこの社会の諸事情に石を投げよう。そして、心拍数を少しあげる。
魂のつながりでフィクションが書ける。ミュージシャンとしての自論。誰かがつなげた空の下で俺たちは出会い、すれ違ったとしてもその匂いで名曲が生まれる。それは人々の心の隙間を埋める。俺たちはそのわずかな匂いを感じるカナリアです。しかしながら、今夜の俺は鼻が利かない。体の中にある、不幸を感じる器官がぴくぴくと反応しないと詩はかけないのだね。それはたまに怒りであったり、諦めであったりして人を慰める。これからライブハウスに向かう俺は、見えない力で守られている。それは俺に抱かれる女がいる事と似ている。

俺は地下に入り、千円を払ってドリンクを貰った。フロアの重い
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