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カナリア三浪
カナリア三浪
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腕を鍛える。後背筋を鍛えすぎると脇が閉まらなくなる。肩の前部を鍛えるため、ベンチプレスをする。あのでぐの坊は何キロ挙げるだろうか? 格闘技はそんなに単純なパワー勝負ではないからそうでもないか。七〇`を挙げる。何度も挙げる。声が近づいてくる。
「俺は強い。俺はモテる。俺は強い。俺はモテる」体に疲労が溜まると声は大きくなり、限界でピタリと心にフィットする。そして力を抜いて放す。何とも思わない。否定も肯定もない。声がただ寄り添っただけだ。腹に力を蓄えるために、持久力を鍛える。上半身を鍛えすぎては、気が上がってしまう。下半身を鍛えなければ力が満遍なく行き渡らない。
 周りを見れば、歳を重ねた人ばかりだ。彼らはまだ燃え残る可能性を輝かせて、光を集める。決して、もう派手な花を咲かせはしない可能性。それを磨くことがどんな気持ちであるか、よく分らない。いや、もしかして…。
 五十分のワークアウトを終えて、シャワーで体を流し、女にメールした。

 今、筋トレをして光を集めてきました。

 缶コーヒーを飲んでまどろんでいる。歌詞のことを考えていた。トレーニングをした後の、空っぽな頭。風の吹かない片田舎のような意識。平和? 歌にしたくない。何せ攻撃的な行為の後の平穏だから、十分もすれば嘘に変わる。女から返信があった。早い。

 地下街でお尻を丸出して歩いている人を見ました。
 あれ位アグレッシブだと人生を間違えそうです。

 俺の大事な光。「美女を好きになるってのは進化だと思うんだよね」ベースのコウちゃんが言ってた。俺にあてつける様に、そしてかばうように。
『進化』
ボーカルの子の詩に『正義』ってあったか。優しさをひと皮剥いた正義だったか。正義について考える。常に人の一歩未来を行くのが正義の旗印か? では進化ということか? 人間を信じるなら進化が正義だわな。『進化』ちょっと使おう。

 進化の途中で見たよ
 誰かのぬくもりが
 あのひとの灰汁を
 包み込んでいた

 携帯にメモしておいた。『進化』の後はツルリと落ちてきた。空っぽの意識が真空のように言葉を寄せた。

こぼさないように
 運んでいるから
 周りから笑われていたけど

 大学時代、黒曜石の交易についてレポートした。
 過去の日々が解ると同時に、何故人はそれが現代に通じると知ると、落ち着くのだろうか。現代の資源の集中が世界の舵取りに深くかかわっているなら、この現代の病が過去の日からもう既に始まっていたのだ。人間の欲のなせる技だと言えないだろうか。過去の日から、現代に至るまで、人間の欲が造った道を通って、便利が運ばれてゆく。それを見た時にわが身を振り返り、自らに過ちがないかを考えないのはどれほど滑稽な事だろうか。
 何故思い出したのか。今日はクリスマス。この特別な日
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