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カナリア三浪
カナリア三浪
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だ。この歌を、明日歌わなければならない。意味ある俺に、寄ってきた言葉たち。
 シャワーを浴びる。
 日々降り注ぐ目に見えぬ雨によりこの心は円く整えられ、その発する声が震わす魂たちと深く共鳴。削られて、芯の顕になったそれはいともたやすく真実に触れる。吟醸、吟醸。訳も知らず酔う体は、過去を忘れて今に溺れる。隠していたトゲを突き刺して明日に向かう勇気を知らせる。溜まっている膿みに突き立てる正しきトゲは、世の中に印す歴史の足跡。それは彼らの後光の一筋。神に通じる道しるべ。行き止まりはほぐされて、慈愛の深みが。醜き心いっとき消え去り、美しき子供産まれる。
 ベッドにもぐりこみ、あくびをすると、涙が冷たく流れる。新しいボーカル。風景を変えるステージ。着替えの終わったかつての仲間たち。彼らは俺の昔の歌を歌うだろうか? この手の中で輝いた物は、こぼれ落ちたあとどんな光を放つだろう。彼らの中でも輝けばそいつはきっと永遠だ。そう思いながら、心の一部が死んだような気がする。そしてボーカルの子の詩を思い出す。『灰汁』の話だ。灰になった心の一部分にふいごで風を送る。つながりを変える心。心細い分かれ道であることに気づく。

 僕が踊っている間
 あなた 何燃やしたの?

 ここから始めよう。

 あくる朝の十一時に体育館のトレーニング室に向かった。ここは開館直後の九時には人で埋まる。一番風呂が好きな人達だ。人がまばらになった昼前のそこで、光を集める。正しく言えば、ここに来るまでも集める。地下鉄の中で偶然出会う人から、すれ違う人から。たまに声が聴こえる。「おお、君いいね」するりと体にまとう目に見えない力たち。それは、人間の潜在的な魅力、可能性に惹かれるらしい。人間の心が気ままなのは、絶えずまとう光が入れ替わっているからだ。それを集めて、纏め上げるのは根性だ。意思と根性のない所に花は咲かない。堕落して輝くのは一時の責任放棄である。もしくは宇宙の不思議。ワームホールを通って運がテクテク歩いて、あらゆる所からか集まってしまったのだ。俺は、鏡の前で筋肉を確かめる。
 俺の体のちょっと前に、好ましい俺がいる。俺がちょっと前に進んだら、好ましい俺はまた少し前を行く。それが定石だ。
「日本人九秒台出ないかな?」陸上の話である。俺の鍛えた魂たちが彼らに力を与えて、そこには神の祝福があればいいのに。有能な魂を研磨して、人にそっと受け渡す。その魂、彼らの肉体を駆け巡り、未知の世界へと誘う。日々精錬に磨き上げられた強い魂たちに活躍の場を。魂のやり取りの話。
肘の内側、くぼみがある。じっと見つめる。ここをキレキレにすると、マイクを持った逆の腕を伸ばして力んだ時、客に驚きを与えないか? 俺は今までマイクを持った腕が折りたたまれた時の、筋肉の『はみ出し』を意識していた。ダンベルを持って、前
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