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カナリア三浪
カナリア三浪
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はその
 一皮をむき取って
 正義というものに
 変えたいのです

 私の優しさは少し
 諦めに似ている
 ものですから

 タクシーで部屋に帰り、暖房をつけて部屋が暖まる間に、キッチンで酒を作った。甘い、琥珀色の酒を入れたシェイカーを振る。それをカクテルグラスに注いだ後、ミルクと酸味のある酒をまた振って、グラスの端から流し込む。琥珀色の酒の下に白いヨーグルトのようにトロリとした雲海が広がる。『上空三万五千フィートの夕暮れ』俺が作ったカクテル。
このカクテルは、あの有名な強姦サークルで重宝がられた酒より美味いだろうか。あの人らは間違った燃え方をした。世紀末から数年間、俺を燃やしたあの音楽の熱。その熱はひどく俗でありながら、どこまでも手が届くような錯覚―今では錯覚と言い切れるが―を撒き散らした。万能感である。
 畑を耕すみたいに、地味で感性がこわばるような仕事を黙々とこなす人がいれば、その頭に乗り、波乗りさながらに享楽をむさぼる人がいる。享楽はひどく引力を強めて、畑を耕す人を横目に見ながら、パイの取り分ばかりを気にしている人々を飲み込む。俺はそれが怖いことだと思っていた。歌のフレーズが思い出される。
―君に悪い気がする

『君』もちろん、畑を耕す人である。
「ハラワタをさらせ」おっちゃんの言葉が浮かぶ。俺はハラワタ、さらしたのか? 冷たいカクテルをなめる。これは本当に口当たりがよいね。そう、この喜び、ハラワタの喜び。あの女を抱いた時の喜び。享楽とは実は「ハラワタをさらす」事なんだな。俺は、じっと天井を見て、どのくらいまで深く俺がのぞかれているか考えている。それは一瞬 恐怖に感じるけれど、すぐ溶けて無くなる。

 もう僕の羊はあの夏の七色じゃない
 光と偽った絵の具の色をしているのに
 あなたはまだそれを抱きしめているのですか
 僕は静かにあなたを見ています ♪

『遠いさよなら』の一節。神にささげた歌か。そう聴こえてもおかしくないな。
 目を閉じてハミングすると、前頭葉に光を感じる。この体は、音を出すとほめられるか。

 何だ お前
いつもちん玉握って
プライド保ってるのか

おい お前よ
今まで好きになった女
思い出して腕立て伏せしてみろ

どうだお前
その真白な世界で
まだ何かに憧れるのか

ほら お前も
タバコ咥えて
悪魔吸ってみろ

おや お前の
向こう側から
名作が聴こえてくるぞ

ああ お前の
真白なところ
虹色の愛で
耕されていく

もし お前の
過去の日々に
心地よい未練と自尊心が
風のようにそよいだならば

そしたらお前
望み通りの
タフボーイ

俺は言葉が好きだ。言葉が意味を持っているのではない。意味あるものが言葉を求めたの
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