カナリア三浪
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彼女、大事な日を一緒に過ごさないと言った。小さな雪のカケラが風に吹かれて転がってゆく。それは次第に大きくなって、人の目を引くほどになったところで止まる。それ以上大きくなってはいけない。それは自分の意識を守るためにブレーキをかけて止められたのだろうか? 何故この雪玉が出来たのか知る人はいない。自身でも分らないのだから。心のままに生きてゆくのはとても危険。それは権力の無い無邪気な子供にだけ許されることだ。わかってる。大事な日を一緒に過ごさないと言った。胸の奥から温かい空気が漏れ出てしまう。体から輪郭を持った魂が持っていかれる。俺がずれる。
冷える空気は頬の感覚を麻痺させる。鼻から冷たい液が垂れているような気がした。この街の冬は俺に根性を与える。
空気も切れそなこの目力は
お前などは関係ない
キレてもキレても意味がない
クラクション鳴らすこの市内
なんだか腹が立ってない?
夏の思い出 消えるほど
この冬の深さよ
高地で過ごすランナーの魂
吸い取られた血液が
戻って来るとき
世界を凌駕
「足ネェ」と、すれ違った男が言う。若い三人。このデニムは股上が深くて、腰で履くと足が一割短く見える。眠りにつく前、腿に手を挟んで感じる。足が体の三分の一位しかないのではないか。若い男の影、薄暮の街で遠ざかる。その長身を一つ、魂の拠りどころとして敵を撥ねる。身長はある程度の大きさを越えたら意味を持たなくなると思っている。六尺では足らないだろうか?
ゆるやかにスカイラインが通り過ぎる。その赤い、丸いテールランプが威圧感を与える。その男、額に垂れる髪の毛を指先でなでてとろけるような視線だった。男、その車を降りても強いだろうか? 角を曲がって向かい風。曲がる前も向かってなかったか。誰のいたずらこの街風。何故か台風は日本を通る。
階段を上がり「おはようございます」と声を張る。控え室にまっすぐ進む。「あれ? 今日は用事ないの?」とバーテンのテツさんが声をかけてきた。「フラレたんですよ」と唇だけで笑った。スノーシューズを脱いで上がるこの部屋のカーペットは黒いシミで汚れている。いくらフロアが綺麗でも、裏がこれなら色気を失うぜ。人間みたいにさ。俺はダウンとタートルネックを脱いで、タンクトップ姿を鏡に映す。肩の筋肉が程よく盛り上がっている。確認しなければ気が済まない。男はイチモツの大きさを日々気にしてしまうからね。白いシャツに黒いベスト、黒のスラックスに黒の革靴。蝶ネクタイを締めてフロアに向かう。
「今日はイブなので、お客さん結構来ると思うよ」店長がミーティングを始めた。「シャンパン出るよ」笑う店長の瞳が片方、良くない。昔、怪我をして弱視になったらしい。各自の年末の行方を聞きながら、マネージャーがシフトを組んでゆく。傍から見
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