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ランナーとの戦い
第六章
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第六章

 江夏はだ。その異常なまでの、人間離れした勘でだった。察したのだ。
「スクイズやな」
 それが来ることを察したのである。
「スクイズや、絶対に来るわ」
 そのうえで三塁にいる藤瀬を見る。するとだった。
 どうもだ。様子がおかしかった。背中越しに見る彼はだ。
 一塁にいた時、そしてこれまでとは違ってだ。動揺と緊張が見られた。何か大きなことをするような。そうした素振りであった。
 一塁の平野を見てもだ。妙だった。
 にやりと笑ったように見えたのだ。その彼がだ。
「やっぱりそやな」
 江夏はここで確信したのだった。スクイズが来るとだ。
 だが問題はだ。何時仕掛けてくるかだった。
 広島ベンチでもだ。それを察していた。
「来るな、これは」
「そうじゃな、スクイズじゃ」
「近鉄は絶対に来るのう」
「間違いなくな」
 それを察していた。何故ならだ。
「江夏は左じゃ」
「三塁はよく見えん」
 だから背中越しに見ているのだ。その藤瀬をだ。
「ほなここは」
「どう来る?」
「何時仕掛けて来る?」
「その時は」
 彼等もだ。見ているだけではなかったのだ。
「いいか?」
 古葉がナインに言ってきた。
「あいつが走ればじゃ」
「はい、その時は」
「どうするんですか?」
「ここは」
「全員で叫ぶんじゃ」
 そうするというのである。
「そしてそのうえでじゃ」
「マウンドに知らせるんですね」
「江夏に」
「そうじゃ。あいつも察しとる」
 監督である彼はだ。江夏のその勘の鋭さをわかっていた。
「そして気付けばじゃ」
「備えられますか」
「あいつなら」
「やってくれるわ」
 江夏のだ。頭のよさもわかっていたのだ。だからこそだった。
 彼はだ。江夏に任せることにしたのである。
「絶対にじゃ」
「はい、それなら」
「ここは」
「走ったらじゃ」
 その時はというのだ。
「いいな、全員で叫べ」
「そうして江夏に知らせる」
「そうするんですね」
「あいつは気付いたらすぐに手を打つ」
 まさにそれが江夏だというのである。それだけの人物だというのだ。
「だからじゃ」
「わかりました。じゃあ」
「そうします」
 こう言い合ってだった。広島ベンチもまた藤瀬を注視するのだった。そして。
 江夏が石渡に対して二球目を投げる前に。彼はまた藤瀬を見た。
「やっぱりやな」
 そのこれまでとは違う何処かそわそわした様子を見て察していた。
「仕掛けて来るな、間違いなく」
 背中越しに見ているのでよく見えない。だが見ていた。
 そしてだ。近鉄ベンチの西本はだ。こう周囲に言うのだった。
「江夏やからやな」
「それで、ですか」
「これは」
「あいつは左ピッチャーや」
 西本はだ
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