暁 〜小説投稿サイト〜
ランナーとの戦い
第五章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第五章

 第七試合、泣いても笑ってもこれが最後だ。その試合においてだ。
 江夏は七回途中から投げていた。そして九回裏、得点は四対三で広島がリードしている。ここを凌げばまさに広島の日本一だ。
 しかしだった。それは近鉄も同じだ。それでだった。
 恐ろしいまでの執念をだ。ベンチから見せていた。
「たった一点や!」
「そっから二点入れたらや!」
「こっちの日本一や!」
「そしてや!」
 その二点でどうなるか。答えはわかっていた。
「監督胴上げするで!」
「ええな、今度こそや!」
「日本一の胴上げや!」
 西本の胴上げだった。これまで、今回も含めて七回シリーズに出ながら一度も日本一になっていない西本をだ。胴上げしたくて仕方なかったのだ。
 それで彼等は何としてもだ。勝たんとしていた。
 まずはだ。この回の先頭打者羽田がヒットで出塁した。そしてだ。
 西本がだ。ここで動いた。
「来るな」
 江夏はわかった。西本が出すカードが何かだ。
「代走、藤瀬」
 彼だった。その彼が出て来たのだ。
 藤瀬は早速江夏の前で動きだした。盗塁を狙ってるのは明らかだった。
 そしてだ。彼は実際に走った。
「来たか!」
 すぐに水沼が二塁に投げる。だが。
 そのボールが逸れた。センターの方に向かう。
「これは!」
「まずい!」
 広島ファンの間から驚愕の声があがった。
 藤瀬は二塁に止まらなかった。そのまま三塁に向かう。
 ノーアウト三塁になった。広島にとってさらに危機的な状況になった。
「あの藤瀬が三塁か」
「内野ゴロでもホームに来るな」
「外野フライだと確実じゃのう」
「同点覚悟するか?」
 広島ナインもファンもこう考えた。そして古葉もだ。
 すぐにブルペンに北別府達を向かわせた。いざという時の為だ。
 江夏はその背に藤瀬を迎えることになった。目の前でいられるのとはまた違った鬱陶しさ、それにプレッシャーを感じずにはいられなかった。
 ここで広島はバッターのアーノルドを敬遠させた。下手な勝負を避け塁に出させたのだ。すると近鉄はまた仕掛けてきたのだった。
 アーノルドにも代走だった。今度は吹石一徳であった。彼も俊足だった。
 実際にこの吹石も走った。これでノーアウト二、三塁だった。
「ヒット一本で終わりじゃぞ」
「それだけじゃ」
「これ江夏でもまずいじゃろ」
「絶対に点は入るのう」
「日本一、ないかものう」
 広島ファン達はだ。さらに覚悟を決めた。そしてだ。
 古葉は最悪の事態を避けた。満塁策を採ったのだ。
 また歩かせた。バッターの平野光泰をだ。これでノーアウト満塁だった。
「よし、一気にいけ!」
「このまま日本一や!」
「遂に西本さん胴上げや!」
「やったれや!」
 近鉄ファン
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ