第三章
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第三章
「これからも」
「そうします」
「それは何故だ？」
「今日巨人の試合ですけれど」
中日にとっても憎むべき相手であるだ。その巨人だというのだ。
「今日それを見せていいですか？」
「試合でか」
「はい、そうしていいですか」
杉下はここからはあえてだ。野球人として、ピッチャーとして濃人に話したかった。
だからこそだ。試合を通じてだというのだ。
「これからのことは」
「わかった。ではな」
そしてだった。濃人もまた野球人だ。それならばだった。
杉下の言葉を受けた。そうしてだった。
杉下はこの日も先発のマウンドに立った。彼は絶対の巨人キラーでもあるのだ。
その彼がマウンドに立つのを観ただけでだ。観客席の巨人ファン達は項垂れる。実にいい光景だ。
「またあいつか」
「スギだけは打てんわ」
「あのフォークボールはもうな」
「魔球じゃ」
魔球の使い手故にだというのだ。
「あんなの投げられたら打てるか」
「絶対に負けるぞ」
「今日もだな」
「負けるな」
こう話してだった。彼等はだ。
杉下の姿を見てはじまる前から諦めていた。そしてそれはだ。
ベンチの巨人ナインもだ。それは同じでだ。
諦めた顔でだ。こう話していた。
「何時フォークを投げてくるかわからないからな」
「あれが来ると思うとな」
「打てないからな」
「あのフォークだけはどうしようもない」
「ストライクにもなるしな」
これは前の試合でわかったことだった。それでだった。
彼等もまたはじまる前からだ。既に諦めていた。
そのうえで試合に赴く。そしてだ。
杉下のフォークを気にして。それに既に負けていてだ。
彼のストレート、最も多く投げるそれすらだ。打てなかった。
「フォークかと思うとな」
「それが今来ると思うと」
「打てないぞ」
「しかもそこにスライダーも入るんだ」
当然フォークだけでなくだ。この球種も投げてくるのだった。
「それに惑わされてな」
「どうしてもな」
打てなかった。フォークを気にし過ぎる余り彼等はそれに飲み込まれていた。
そしてそのままだ。この日もだった。
杉下を打てず次々に打ち取られだ。試合は終盤に入った。点数は中日がリードしている。このまま九回を終えればこの日も中日の、そして杉下の勝ちだった。
だが巨人も意地がある。それでだ。
九回裏ツーアウトからだ。与那嶺要が塁に出てそこから盗塁を決めて二塁に入った。そしてだ。
バッターボックスには千葉茂がいた。猛牛と言われ守備だけでなくバッティングでも活躍している男だ。
その男もだ。杉下のフォークを警戒していた。それでだ。
「ここは絶対に来るな」
そのだ。フォークが来ると確信していたのだ。
「それならな」
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