明けに咲く牡丹の花
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追いつく為にはさらに時間が掛かるのも分かった。ただ……あたしの動揺を誘おうとしたんだろうけどその程度に問題は無く、それよりも関靖がやっと心の隙を見せてくれた事の方が嬉しい。
自然と口の端が歪んで行き、関靖の死の淵の集中力を容易に崩す為の、最善であろう方法を笑いながら告げる。
「ねぇそれってさぁ、秋兄が……秋斗があたしを殺そうとしてるのと同じ意味だよねー」
彼の名を口にすると、彼女の表情があらんばかりの怒りへと変わった。当たり前の事だ。自分が慕うモノの真名を、憎むべき敵であるあたしが気軽に呼んだのだから。
「張コウっ! 誰の許可を得て軽々しく真名を――――」
「残念でしたー。秋兄とあたしは仲良しだし真名を交換してるもん。だから問題ないよー」
言い切って舌を出すと関靖の瞳が揺れる。困惑、動揺、悲哀、疑念、切望……感情の渦は思考に波紋を齎し、綯い交ぜになった心は迷いを生み、命のやり取りという極限状態に於いて一番の敵となる。
「嘘……嘘です……嘘に決まってます! お前みたいな外道と……真名を交換するはずが――――」
「真名の事で嘘をつくのはご法度。それくらい分かってるでしょ? どうして交換したかは後で全部教えてあげる、よっ!」
そんなはずは無い、と現実を受け止めきれていない関靖に向けて大きめの木片を蹴り上げると、迷いの思考に引きずられるまま関靖は己が武器で弾き飛ばし、予備動作も行えず振り切られたその片腕に、漸く大きな切り傷を走らせる事が出来た。
ギリと歯を噛みしめて絶叫を出さなかった関靖は、だらんと垂らした片腕をひきずるように飛びのく――――途中に膝から上にもあたしのもう片一方の腕の振り抜きによって二筋の切り傷が入る。
乱れた集中力は大きな傷の痛みを脳髄に伝えるようになり、彼女は飛びのいた先、着地点で表情を歪めながら身体の均衡を崩してぐらついた。
その隙を逃すような自分では無く、全力で地を蹴って近づくこと大きく二歩、踏ん張りも効かず、片腕でどうにか放たれた戦斧での力無い一撃を己が武器で下から弾きあげて力を逸らし、そのままの勢いで関靖を引き倒して馬乗りになった。
「呆気ないもんだね。終わりだよ関靖」
目に涙を溜めてあたしを睨みつける関靖はまだあの人の真名をあたしが呼んだ事を認めていないようだ。
真名は余程信頼を置く間柄でなければ交換しない。ましてや異性、それを家族以外で呼ぶことの出来るのは婚姻関係を結んだ者達くらいか、生死を賭けて共に戦う武人か、絶対の友くらいでないと不可能。最近は主従関係でもある程度は呼ばれるようになったが、それは主が部下を信頼し、裏切らないと悟ってこそ呼べるモノだ。
それだからこそ異常なのはあたしと夕と秋兄であり、関靖の対応は通常のモノ。
「安心しなよ
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