暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
明けに咲く牡丹の花
[7/14]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
かり陰鬱とした気分が斗詩の胸に広がる。
 公孫賛軍の死にかけの味方でさえ躊躇なく殺す様子は悪鬼、狂人と呼ぶに相応しかった。
 明の隊もそれに近いが、さすがに味方を殺す事まではしない。先程までの光景が頭に過ぎり、尚も気分が悪くなる斗詩であったが――

「まだまだあたい達に命を賭けて向かってくる兵がいるんだな!」

 目を爛々と輝かせ、楽しそうに声を上げる猪々子に愕然とした。親友の発言は斗詩の心に不安を齎してしまう。

「文ちゃん……さっきまでのあれを見てなんとも思わないの?」
「ん? だってすげぇじゃんか! 守りたい奴の為に必死で……味方に殺されてまで時間を稼ぐなんてさぁ! それなら敵のかっちょいい心持ちに対して全力であたい達のしたい事を押し付けるのが戦だろ?」

 にやにやと笑みを浮かべながらの言葉に斗詩は思わず苦笑が漏れる。
 戦バカ。それが猪々子に対する周りの評価となる。だが、斗詩は分かっている。猪々子なりにその兵の想いを受け止めようとしているのだと。
 戦は己がエゴの押し付け合い。敵の話も、思想も、生き様も、誇りも、全てを地の底に叩き落とし、力を以って自分が正しいと主張する。
 その冷たい理論の中に、人の想いという別種の熱いモノがあるのなら、せめて自分達の方が上だと示してそれを守ろう。猪々子の言い分はそんな所。

「うん。そうだね。敵兵さん達も必死……でも、私達にも守りたいモノがあるから戦わなきゃだね!」

 そんな気持ちを予想してか斗詩は自分を鼓舞するように、言い聞かせるように声を出して気合を入れる。
 優しい彼女は戦には向いていない。だが、彼女も守りたいモノが確かにあるのだ。

「斗詩も気合入れてくれたかぁ! くぅ〜! 腕が鳴るぜぇ! とりあえず本隊見つけないと話にならないし、どうせあたい達に向かってくるなら……野郎ども、正面から全力突撃だぁー!」
「せっかく広い場所に出たのに!? もう! 無茶ばっかりするんだから! 顔良隊、文醜隊の補佐の為に左右に分かれて突撃! 三方向から敵を制圧します! 強弩部隊は追随して広がる敵の殲滅、掛かれっ!」

 単純明快とばかりに敵に突撃を仕掛ける猪々子に対し、斗詩はしっかりと補助に回る。そんな彼女達だからこそ着いてくる兵もいる。
 その場に残された張コウ隊は苦笑しながら二人の部隊を見送っていた。
 後ろの林の中、立ち上がる影がある事には気付かずに。


 †


 凄絶な打ち合い、とまではいかないまでもある程度は自分の動きに付いて来ていた。
 死の淵に瀕すると武力が上がる事はよくある。感覚が研ぎ澄まされ、普段よりも力が上がり、反射速度も劇的に変わる。
 呂布と戦った時はあたしも同じような感じだった。生き抜く事が最優先となり、全ての思考がそれのみに集
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ