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それぞれの白球
加持編 血と汗の茶色い青春
一話 礼を是とせよ
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」」
「…返事が小さいぞ」
「「「はい!!」」」

不思議なもんで、テレビにも何度となく映るこの冬月先生の言葉にだけは、みんな食いつくんだよなぁ。
グランド外の雑務を担当してる部長には一先生としての扱いの癖に、グランドの中での権力者相手にはこの通り無意識に媚びへつらう。
奇妙なもんだ。
ま、俺も精一杯の「聞いてるふり」をしてたんだけどな。

「よし、では、野球部施設を案内する。おい、高橋!」
「はい!」

冬月先生の訓示が終わると、部長は食堂の後ろの方で見ていた、是礼野球部のロゴ入りポロシャツにジャージという格好をしていた生徒に声をかけた。



ーーーーーーーーーーーーーー



「ここが大浴場だ。22時まで開いてる。グランドでの自主練習は21時までだが、皆頃合いを見て早めに入るように。」

2年生のマネージャーである高橋さんに、俺たちは施設の案内をされた。高橋さんは、マネージャーとは思えないほど体の大きな、ハキハキと話す人だった。

俺が「自分が一年生だな」と実感したのは、各施設の案内に於いて必ず「掃除と片付けの方法」を教えられた事だった。洗濯場でレクチャーを受けた泥の落とし方も、明らかに多人数を一斉に洗う為のもの。だいたい、俺たち一年生がせねばならない事というのに察しがついた。

「高橋さん、さっきから掃除の話ばっかりじゃないですか」

しかし中には察しがついていない馬鹿も居たんだ。
一年生の中で一際鼻っ柱が強そうな顔をした奴が、声を上げた。

「グランドとか早く見せてくださいよ」

余計な事言っちゃいけねぇって事くらい、普通分かりそうなものだが、野球だけをしてきた御山の大将なんだろうな。

「…お前、何て名前だったっけ?」
「所沢北シニアの山口っすよ。知ってます?」

高橋さんの目付きが変わった。
明らかに怒ってる。
んで、このバカは相手が怒ってるとかえって突っぱねやがったんだよな。

「なぁ、山口、物事には順序ってのがあるんだよ。とりあえず最低限お前らにやってもらいたい事を先に教えるのがそんなにおかしいか?」

高橋さんは山口に詰め寄った。
大柄な高橋さんに詰め寄られて、山口の顔もようやく引きつる。

ドガッ!

高橋さんの膝蹴りが山口の腹にめり込んだ。
山口はその場に崩れ落ちたが、俺には全く同情の気持ちは湧いてこなかった。
だが、何の躊躇いもなく膝蹴りを食らわせた高橋さんにも、俺は同意しきれなかった。
だって問答無用だぞ?
つい最近まで中坊だった奴が生意気言うなんて、当たり前の事だろ?
いきなりデカい体をした高校生が一発ぶちこむなんて、どれだけ許容度がねぇんだよ。



でも、こんなのは高橋さんに限った話じゃない。是礼の流儀ってモノ
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