第十一章 追憶の二重奏
第一話 烈風
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を得た。
「あれは……」
「どうかしましたか?」
アニエスの訝しげな声を耳にしたアンリエッタが、誘われるように顔を上げると、
「あのマント……マンティコア隊の……それにあの羽飾り。あれは隊長職の帽子の筈よね」
そこにはアニエスが見つめる一人の騎士が立っていた。騎士が纏う黒いマントにはマンティコアの刺繍が大きく縫い込まれており、頭には羽飾りが付いた帽子が。訝しげに眉根に皺を寄せるアンリエッタの前に、アニエスが盾となるように移動した。
「ド・ゼッサール隊長は、今は城にいるはずです。それにあの体付き……ド・ゼッサール隊長にしては細すぎます」
「ええ。まず間違いなく別人ですね」
アニエスの後ろでアンリエッタが頷く。アニエスたちの視線を受けながら、騎士が階段から下りてくる。それを見て、残りの四人の護衛の銃士たちがアンリエッタの周囲を固めた。既に全員が腰に差した銃や剣に手を伸ばしている。
階段を下りきった騎士は、アンリエッタたちから約五メートル程離れた地点で立ち止まった。
代表するように、アニエスが一歩足を前に出る。目の前に立つ騎士を、アニエスは警戒心を込めた目で観察するように見つめる。移動する視線が、騎士の顔でピタリと止まった。
「―――ッ!」
目にしたものに、アニエスは息を飲む。
帽子の下にある騎士の顔には、鼻から下を覆うように鉄仮面がつけられていた。だが、アニエスの目が奪われたのはその上―――騎士の瞳、その輝きにだった。目、そのものが輝いているかのように感じる程強い意志を感じられる目の輝きに、アニエスは息を飲む。
だが、気圧されることなく身を引き締めると、アニエスはその眼光を睨み返す。
「―――ふ」
微かに息が解ける音が響く。
―――笑った?
思考の片隅にそんな思いが浮かぶが、直ぐに心の中で頭を振ると、アニエスは目の前に立つ不審な騎士に問いかける。
「貴殿は何者か? 陛下のおんまえでそのような姿。ラ・ヴァリエール公爵に縁ある者ならば、今すぐ名を名乗り、そのふざけた格好を改るがよい」
「ふざけてなどおりません」
アニエスの問いに顔を横に振ると、騎士はその場で膝をつくと深々と頭を下げた。
「お久しぶりでございます。このお姿ではお会いするのは初めてのことだと思われますが、私は先代マンティコア隊隊長カリーヌ・デジレでございます。当時は故あって仮の名を名乗っておりましたが、今も変わらず王家に忠誠を誓う者でございます」
「まあっ!」
「―――ッッ!!?」
膝をつく先代マンティコア隊隊長を名乗る騎士を前に、アンリエッタは喜色が混じる驚愕の声を、アニエスは悲鳴混じりの驚愕の声を飲んだ。
「先代マンティコア隊隊長ということは、まさかあな
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