第十一章 追憶の二重奏
第一話 烈風
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人の人物―――ロングビルであった。その豊かな胸の下に両手を組み、深々と席に座るロングビルは、小さく伏せていた顔を上げ、馬車の中を一瞥する。
そして、驚愕の顔で固まるルイズで視線を止めると、強ばった顔で続きを口にした。
「先代マンティコア隊隊長『烈風』のカリン。常に鉄のマスクで顔の下半分を隠し、荒れ狂う嵐のような風を操るトリステイン王国史上最高の風の使い手。エスターシュの反乱をたった一人で鎮圧し、ドラゴンの群れさえ一人で退治したとも言われている。その余りの強さに、ゲルマニア軍が『烈風』カリンが出陣したという噂を聞くやいなや、退却を始めたと言われるほどの逸話があるほど。その正体は男装の麗人だとも言われているが、その真偽は判然としていない……」
突然語りだしたロングビルに、ルイズを除く馬車の中にいる者たちの訝しげな視線が集中する。
「えっと、ロングビル? どうしたのよ突然?」
「その『烈風』のカリンという人がどうかしたのか?」
キュルケと士郎の問いに、次はルイズが応えた。
「―――母さまなのよ」
視線が一斉にルイズに向けられる。
タバサも驚きに見開いた目でルイズを見つめている。
「え? は?」
戸惑いを露わにするキュルケに、ルイズは乾いた笑い声を上げる。
「は、ハハハ……で、知ってる? その当時のマンティコア隊のモットーを」
皆の視線がルイズに向けられた後、キュルケの横、ロングビルに向けられる。
ロングビルはルイズと同じく乾いた笑みを口元に浮かばせながら、微かに震える声で答えた。
「―――『鉄の規律』……『烈風』のカリンは規律違反を過剰なまでに嫌っており、規則を破った者を再起不能寸前にまで追いやったことがあるとまで……」
ロングビルの応えを聞き、先ほどよりも若干顔色を青くした士郎たちの視線がルイズに向けられる。
「……わたしが怯える理由……分かった?」
トリスタニアを出発してから二日後の昼、空に輝く日の光が中天に座す頃、アンリエッタが乗る馬車はラ・ヴァリエールの屋敷に辿り着いた。馬車の周囲には、アニエスを含む五名の馬に乗った護衛しかいなかった。お忍びのため護衛の人数は少ない。屋敷の前には、屋敷中の使用人がズラリと並んで頭を下げている。その背後に設置されたポールには、小さいがトリステイン王家の百合紋旗が掲げられ、風に揺れていた。来訪がお忍びということで、派手ではないが礼に満ちた出迎えであった。
馬車を止め、馬を降りたアニエスは馬車の扉を開けた。
開けた扉の向こうから白い繊手が伸ばされ、それを手にとったアニエスがその持ち主を導く。その際、アニエスの視界に、城の本丸に繋がる階段のほぼ中央の位置に立つ一人の騎士の姿
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